2度目のキャリアブレイクを終えるきっかけとなったのは、知人のあるひとことだった。ベンチャーキャピタルで働いていた知人に事業譲渡した経緯を話すと、「一度、人に雇われてみたら?」と言われたのだ。
「たしかに、雇われたことがないなと思って。なので、あえて会社員の仕事をしてみようかなと思ったんです」
7、8カ月ほど休んだあと、転職サイトからとあるITベンチャー企業の求人に応募し、採用された。人生で初めて、会社員として働く日々が始まった。この経験が、江藤さんの考え方を大きく変えることになる。
「それまで経営者の立場で、社員に対して『なぜ事業にコミットしないのか』と思うこともありました。でも、経営者と社員は立場が違うんだということがわかったんです。経営者は事業が儲かるほど、株などで直接的なリターンがありますが、会社員は必ずしもそうじゃない。だから、『なぜそこまでしないといけないの?』と思ってもおかしくないよな、と」
離職期間がきっかけとなり、江藤さんのなかで「雇用される側の視点」が育まれていった。さらに、「キャリアを中断しても、社会復帰して働けるんだ」という自信もついたという。
その自信どおり、江藤さんはITベンチャーでのオウンドメディア立ち上げや、スマホで写真が売れるアプリの開発とCEOへの就任、サッカークラブでのマーケティング戦略部長など、現在に至るまでIT・スポーツ・メディアの領域を横断した活躍を続けている。
「本気で休む=生産的なことを何もしない」ことで視野広がる
20代後半でのうつ病による離職と、30代後半で事業譲渡をきっかけにした離職。2度のキャリアブレイクを振り返って、「本気で休む=生産的なことを何もしない」という経験が、人生をプラスの方向に変えてきたと江藤さんは考えている。
江藤さんも、かつては「生産的でないことには価値がない」と思っていた。たとえば、余暇もダラダラと過ごすことができず、隙間時間があればビジネス書を読んでいたという。「少しでも生産的なことをしていないと気持ちが悪い」という感覚があったのだ。
そんな考えがもとで、キャリアブレイクの時期にも少し余裕が出ると仕事に役立つ勉強などをしようとすることもあったが、余計に疲弊してしまった。そこで江藤さんは、「本気で休む=生産的なことを何もしない」と覚悟を決めたのだ。不思議なことに、それから視野が広がったという。
「『本気で休む=生産的なことを何もしない』と決めると、それまで目を向けなかったようなことをやり始める人が多いんですよね。私の場合、スポーツ観戦にハマったことで救われました。かつては『スポーツとかエンタメって、なんのために存在してるんだろう』とすら思ってたのに(笑)」
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