当時の江藤さんは、好きなチームをただただ夢中で応援していただけ。のちに自らがプロサッカークラブのマネジメントに関わるなんて、想像もしていなかったはずだ。結果論だが、休んでいるあいだに好きなことを見つけることが、将来への先行投資になっていた。
「だから少し元気が出てきたら、それが将来役に立つかなんて気にせずに、やりたいことをやってみるのが大事だと思いますね」
看板を捨てたから、希少な人材になれた
一般社団法人キャリアブレイク研究所が提唱する「無職の5段階」によれば、キャリアブレイクの期間には「実は◯◯がしたかった」といったような深層心理的な言葉が語られるようになる時期があるという。
江藤さんがスポーツ観戦と出会ったのも、まさに「実は◯◯がしたかった」という自分自身の声に気づくような体験だったのではないだろうか。
ただ、自分自身の「実は◯◯がしたかった」という声に気づいても、それを仕事につなげるためには乗り越えなければならない壁があったと江藤さんは語る。
その壁とは、地位や収入といった「看板を捨てる」ことである。
「自分の地位や収入がなくなるのがすごく怖かったんです。『何社の社長ですよ』という看板があってこそ、話を聞いてもらえる部分もあったと思うんですね。だから、それまでの看板を維持したまま、次の仕事を選びたいという気持ちがありました」
成功体験があればあるほど、なんとか過去の地位や収入にしがみつきたくなるのが人の常(つね)だ。しかしそうすると、せっかく広がろうとしている視野を狭めてしまうばかりか、その焦りに乗じて詐欺などの被害にあいやすくなるのだという。
だからこそ、看板を思い切って手放してみる。キャリアの選択基準を、収入や地位といった看板ではなく、「自分の心が躍るかどうか」に置いてみるのだ。
「すごくワクワクするけどあまり待遇がよくない仕事と、ワクワクしないけど待遇がいい仕事。どちらに転職するかを悩む方が多いですが、今の自分だったら絶対にワクワクするほうを選びます。そちらを選んで、後悔したことがないんですよね。それに、好きなことには時間と労力をかけるのが苦じゃなくなるので、のちのち収入もついてくると思っています」
実際に江藤さんは、まったくの未経験からスポーツ業界に飛び込んだ。当初は収入も下がったというが、「やりたい」という気持ちに従ったことで、結果的に自らの市場価値が上がることにつながったと感じているという。
「新しい世界に飛び込むと、過去にどんなことを成し遂げている人でも新人。だから最初は難しいこともたくさんありますが、だんだんと力がついてくると、前の仕事の経験も生かせるようになって大きく飛躍するんだと思います。私の場合、ITとスポーツ、両方のことをわかってる人って珍しいので、そこを買ってもらえているのかもしれません」
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