江藤さんは経営者として、社員や選手をマネジメントする側でもある。マネジメントをする際の考えにも、キャリアブレイクで得た気づきが生かされているようだ。その考えとは、「社員のパフォーマンスは7割くらいがいい」というものである。
「100%のパフォーマンスは、長く続かないと思うんですよ。経営者の方で、すごく頑張っていた社員が急に辞めると言い出す『びっくり退職』に頭を抱えている方もいると思いますが、それは不思議なことではなくて。全力で走る人は一時的にはパフォーマンスを出せても、かつての私のように燃え尽きたり、『このままではいけない』と急に方向転換せざるをえなくなる時期があるんです」
だからこそ、マネジメント側もメンバーの「3割の部分」を尊重し、支援することが必要だという。
「一見生産性がないと思えるような時間がないと、人は長く走り続けられないと思います。その意味では、会社を辞める、辞めないは関係なく、組織として個人が休んだり、遊びの時間をつくれるようにサポートするのがいいんだろうなと」
マネジメント側が、個人の「本気で休む=生産的なことを何もしない」時間を支援する。それは結果的に、個人が長期的にパフォーマンスを発揮することにつながり、組織の生産性を上げることにつながるかもしれない。
だが、江藤さんが経営者として「本気で休む=生産的なことを何もしない」ことを尊重する理由は、ほかにもある。
「昔は『とにかく生産性を上げる』ことが経営者の務めでしたよね。もちろん今でも生産性は大事ですが、それ以上に『働く人たちの幸せ』を実現することが、経営者の務めだと思うんです。会社は、1人ひとりが幸せになるために存在するもの。みんなを不幸にしてしまったら本末転倒ですから」
人生は思いどおりにいかなくても、幸福に生きられる
かつて江藤さんは、自ら起こした事業を手放すこととなった。それは小さくない挫折だっただろう。
けれどキャリアブレイクを経て、「1人ひとりが幸せになるために、会社や仕事が存在している」という考えにたどり着いた。そんな経営者としての現在の姿は、かつて江藤さん自身が思い描いていたものとは異なるかもしれない。
実は江藤さん、学生のときには『何歳で就職して、何歳で結婚して……』という細かい計画があり、『そこを外れたら、もうダメだ』と考えていたらしい。
「だけど、いきなり就職からつまずいてるわけですよ(笑)。その後も、病気になったり、事業を手放したり、これまでを振り返ると自分でコントロールできないことがすごく多かったです」
自らの選択で、キャリアブレイクに踏み出す人もいる。一方で江藤さんのように、思いがけず離職や休職を余儀なくされる人も多いのではないだろうか。
人生は計画どおりにはいかない。しかし「計画を外れたら、もうダメ」では決してないということを、江藤さんのユニークな歩みが示してくれている。なにしろ離職を経験していなかったら、サッカークラブで働くことはなかったかもしれないのだ。
「アスリートで、小さい頃に書いた卒業文集の夢をかなえてる人がいるじゃないですか。それはそれですばらしいなと思うんですけど、大方の人は多分そのとおりにならないですよね。
でも、人生が思いどおりにならなくても、まったく悲観する必要はない。幸せに生きられるよ、ということは、『計画から外れたら、もうダメだ』と思っている方にお伝えしたいなと思いますね」
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