じわり「親中」を増やす中国ユーラシア外交の深謀 サウジ、イランだけでなく欧州勢も北京もうで

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中国がこうした外交により中長期的に目指している姿は、アメリカを追い落としたうえでの「世界覇権」ではなく、アメリカの影響力を極力排除した「ユーラシア覇権」だと筆者は想定しています。

ただし「覇権」と言っても、国々に中国と同じ「共産党一党独裁体制」を強いるわけではなく、「親中」国を増やし、中国を中心とした経済的・軍事的連携ネットワークを拡大することが目的です。

すでにSCOなども活用しながら、ユーラシア大陸の北・中央で、ロシアや中央アジア諸国との連携を強化し、南ではインドとの関係をこじらせないようにしながら、さらに中東主要国を仲間に引き入れつつあります。

欧州では「親中国」づくりで影響力を確保

大陸西側の欧州は、全体は無理にせよ、少なくとも一部の国を優遇し、親中国に留めることによって、欧州全体に対する影響力の確保を目指しています。訪中した仏マクロン大統領に対する習近平政権による異例の好待遇もここに狙いがあります。

「ユーラシア覇権」実現にはアメリカとの対立自体は避けられませんが、最終決着をつける必要はありません。アメリカとの直接的かつ致命的な争いを極力避けつつ、国際社会でうまく立ち回りながら、特にアメリカの影響力が低下した地域や国を狙い、仲間を増やしていく戦略です。

「中国による早い段階での武力侵攻」が前提となりつつある台湾情勢についても、こうした視点から再度考えてみる必要があります。

日本から中国を見る場合、どうしても、中国の「太平洋側の動き」に焦点が当たりがちです。日本がそこにあり、中国の政治・経済の重心が中国東海岸沿いにあり、アメリカとの対立、台湾問題などを勘案すると、それも当然です。一方で、日本からは見えにくい中国の「内陸側の動き」には鈍感になりがちです。SCOは、その端的な事例です。

国際社会における中国の存在感の高まりについても、日本や欧米先進国の視点では、どうしても、否定的に捉える傾向が強く、実際の姿が見えにくくなります。

中国が好きか嫌いかは別にして、実態を事実として冷静に受け止めていかなければ、中国の力を過小評価し、対応を誤る危険があります。物事を「多角的な視点」でみることは常に重要ですが、中国に対してはこの視点がますます重要になることを肝に銘じておくべきと思います。

武居 秀典 DIC インテリジェンス室長

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たけい・ひでのり / Takei Hidenori

一橋大学卒業。三菱商事で主に調査・分析業務に従事。調査部長や北京現地法人社長を歴任。ロンドン、NY、北京などに計14年間駐在。2023年大手化学メーカーDICに移籍。

 

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