安倍晋三元首相が中国を翻弄した秘策「狂人理論」 「中国が最も恐れた政治家」が使ったアメとムチ
「どうも安倍晋三です。アメリカにある中国人女性の『愛人村』と『妊婦村』のルポはとても衝撃的でした」
2016年8月、ワシントン特派員をしていた筆者の携帯が鳴った。電話の向こうは、安倍晋三首相(当時)だった。リオデジャネイロ・オリンピックの閉幕式に出席した帰路、トランジットで立ち寄ったロサンゼルスの日本総領事館から連絡をもらった。
安倍氏は閉会式で、任天堂のゲームキャラクター、スーパーマリオになって登場するというサプライズをやったばかりで少し興奮気味だったのだろうか。直に会話を交わしたのは、このときが初めてだった。国会の答弁や記者会見のときよりも少し声のトーンが高く早口に感じた。
安倍氏はリオデジャネイロ行きの機内で、その1年前に出版した拙著『十三億分の一の男 中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争』(小学館)を読んだそうだ。同著では、習近平氏が中国共産党トップに上り詰めるまでの過程について、権力闘争をキーワードに読み解いている。
安倍氏の質問は詳細で具体的だった
しかし、安倍氏の関心事は、権力闘争ではなかった。本で紹介したロサンゼルス郊外にある中国の政府や高官の愛人が暮らしている「愛人村」や、有力者の夫人らが生まれてくる子どもにアメリカ国籍を取らせるために出産目的で一時渡米して住む「妊婦村」に興味があったようだ。
また、同著の冒頭で記したハーバード大学に留学していた習氏の長女のことについても詳しく尋ねられた。「彼女たちが住む家の価格は」「資金はどのように米国に運ぶのか」「学費をどのように賄っていたのか」……質問は実に詳細で具体的だった。
初めて対面したのは、安倍氏が首相を退任した2020年末のことだ。安倍氏から「中国情勢について意見を聞きたい」と旧知の自民党代議士を通じて連絡があったのがきっかけだった。安倍氏の議員会館を訪れると、あいさつもそこそこに4年前の筆者との電話でのやりとりを振り返った。
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