日本の「卵不足」語られていないその不都合な理由 時代遅れな生産・消費体制が招いた品不足

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そもそも卵は、日本人の食生活に欠かせないもので、1人当たりの年間消費量は340個と、世界第2位(2020年国際鶏卵委員会より)となっており、誰もが購入するもの。そのため、スーパーなどでは人寄せのために卵の価格を安く設定して販促ツールとして使っているところが多く、かなり薄利というのが事実。

こうした卵は取引量こそ多いものの、生産者の利益も薄いうえ、生産体制も限界がきていることが今回のことで表面化したのです。つまり、現在の状況は、スーパーなど大量購入してくれる企業の要望に応じて大量に安く出荷していた卵が品薄になってしまっている結果、卵が高騰しているという構図なのです。

日本の養鶏の時代遅れな現状

日本の養鶏は、狭いケージに鶏を数羽ずつ閉じ込めて飼育していることが多く、養鶏場の9割がケージ飼育をしています。しかし、ヨーロッパは、このケージ飼いは動物が生きている間はストレスの少ない環境で飼育するという「アニマルウェルフェア(動物福祉)」的によくない、と禁止されているのです。

アメリカのマクドナルドでは、ケージ飼い卵の使用を禁止しているほどで、欧米ではケージ飼いではなく、農地を動き回れる「平飼い」の卵が多く流通しているのです。

この世界的な潮流を考えると、日本でもケージ飼いを続けることはSDGs的にも難しくなり、今後飼育法の転換を迫られるのは間違いありません。日本は、キャッシュレスの普及率、男女同権など世界から遅れをとっていると言われますが、養鶏でも世界の常識から遅れをとっているのです。

とはいえ、日本には生の卵を食べる食文化があります。すき焼き、卵かけご飯など、生の卵は危険だと言われる海外とは常識が違います。日本で行われているケージ飼いは、鶏と菌やウイルスとを分けて飼育できるため、衛生環境が非常にいいのです。

また、洗浄してサルモネラ菌をしっかり洗い流し、検品をしてから出荷しているので、日本の卵は、世界一安全と言われているのです。しかし、平飼いにすると、採卵、掃除など生産者の手間とコストは膨大になるため、日本ではなかなか平飼い卵が普及しないとも言われています。

卵は、これまでが安すぎただけに鳥インフルエンザが収束しても、簡単には値下がりはしないでしょう。今後も続く餌の高騰に加えて、光熱費、資材費、人件費も値上がりしている中で、「物価の優等生」と言われる価格に戻すことは厳しいと思います。また、前述の通り、遠くない未来にはケージ飼いが社会的概念として通用しなくなる時代が来るでしょう。

それに備えて、安い卵を求める消費者や企業の意識の転換とともに、養鶏農家も飼育方式の転換を同時に進める必要があると思います。

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