京都で150年「茶筒の老舗」が世界で支持を集めた訳 「修業」や「非効率」こそが今、世界で強みになる

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おそらく、短期的に今日、明日の売り上げや効率を見るのであれば、150年前と同じやり方でモノづくりを続けていくのは、NOということになるでしょう。

ただ、今日、明日だけを見て、機械で大量生産された茶筒が広まった時代に、私たちも手づくりを捨てて機械製に切り替えていたら、開化堂は確実に残っていなかったはずです。

実際、海外において、たとえば伝統を大切にするモノづくりの国だったイギリスは、現在モノを外国から買う国になり、僕もイギリスに出張すると「お前たちは、こういう技術をきちんと大事にしなさいよ」と言われるようになりました。

また、イタリアにおいても、M&Aによって技術を持つ工房が大きな会社に軒並み吸収され、採算性に合わない特殊な技術がどんどん切られた結果、イタリアの職人さんたちから「途切れてしまった技術を日本の職人さんたちは持っているからうらやましい。教えてほしい」と言われることも増えてきていると聞きます。

失った唯一無二の空気感の大切さに気づき始めた

だからこそ、ここで1つ言いたいのは、そうした特殊な技術のようなものを、短期的な採算性や効率に照らしてカットしていったあと、企業に残るものは何なのか、ということです。

仕組みを構築して誰でもできるようにされたノウハウは便利ですが、そこには「誰でもできる範囲しかノウハウ化されていない」という大きな落とし穴があります。

それこそ職人は「見て覚えろ」の世界ですから、文字にならないような熟練の職人の感性で施していた目立たない工夫や思いやりのひと手間なんてものは、引き継がれずに抜け落ちていく。

そうやって、何かに置き換えてしまえるような技術ばかりになったら、どこの会社のモノでも一緒になってしまいます。

効率化を進めていった先にあるものは画一化であり、あとは価格競争になってしまうだけではないでしょうか。

そういった会社の商品が、世界の人から長く推されるようになることは難しいでしょう。

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人間には「何かうまく言い表せないけれど、そのモノに言外の魅力があって、だからあれがほしい」と、感じ取れる力が備わっているのだと思います。

では、その言い表せない魅力あるクオリティーを生み出すものは、何か──。

つくる数を追い、売り上げを追い、時代についていくことを求めすぎた結果、特殊な技術や自分たちがまとってきた唯一無二の空気感を失い、失ってからその大切さに気づき始めているのが、現在の世界なのかもしれません。

修業であったり、非効率な技術であったりといったものがたくさん失われている現代だからこそ、そのポイントを大切にすることで、時代やお金に振り回されない商いが可能になるのだと思います。

八木 隆裕 開化堂の6代目当主

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やぎ たかひろ / Takahiro Yagi

1974年生まれ。1997年、京都産業大学外国語学部英米語学科卒業。2000年、開化堂入社。BtoBからBtoCへ客層を変化させ、海外市場にも積極的に進出。ヨーロッパ、北米、台湾を始めとしたアジアにも力を入れる。2012年より、京都の伝統工芸を担う同世代の若手後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成、国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2014年、開化堂の茶筒がロンドンのヴィクトリア&アルバートミュージアムのパーマネントコレクション(永久展示品)に、2015年にパリ装飾美術館、デザインミュージアムデンマーク等のパーマネントコレクションに選出された。2018年、京都精華大学伝統産業イノベーションセンター特別共同研究員に就任。

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