「寅にとって不幸な時代」日本社会が失ったもの 山田洋次監督が語る「男はつらいよ」の世界

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山田洋次監督
山田洋次監督は「寅さんの顔は、見るだけで気持ちが楽になって、身体がリラックスする」と語った(撮影:尾形文繁)
初公開から半世紀を経ても人気が衰えない映画『男はつらいよ』シリーズ。時代が変わっても人気が衰えない理由は何か。観客は、寅さんに何を見い出しているのか。原作者の山田洋次監督(91歳)に話を聞いた。3回シリーズの第3回(第1回第2回

――『男はつらいよ』シリーズは渥美清さんがお亡くなりになったことで一段落しました。渥美さんがもし生き続けていたら、監督は、年金給付もないであろう年老いた寅さんをどのように描くつもりだったのですか。

作家の故遠藤周作さんがまだお元気だった頃、寅の晩年について話したことがありました。

遠藤さんによると、寅はだんだん身体が弱って、旅に出る元気もなくなってしまう。それを御前様が哀れがって「お前は愚かな男だけれど何の罪も犯してはいない。それどころか多くの人を精神的に救ってきた。お前の晩年が、人に迷惑をかけるようじゃ気の毒だから、うちの寺で暮らせ」と引き取る。それで寅は寺男として、掃除なんかして暮らしていたんじゃないかというんです。

子どもたちとかくれんぼをしているうちに

寺には近所の子どもたちが遊びにくるでしょう。寅もそれが楽しみで、いつも一緒にかくれんぼなんかして遊んでいる。

あるとき、鬼になった寅が縁の下で「もういいかい」と呼んでいた。子どもたちが「もういいよ」「もういいよ」と何度も返すんだけど、寅が探しに来ない。「寅さん、何してんの?」と子どもたちが見に行ったら、縁の下でうずくまったまま息を引き取っていた――。

御前様が哀れがって、「寅次郎」という地蔵を彫り、境内に建ててあげることにした。その地蔵はなかなか御利益があって、とくに恋に悩む若者たちがたくさん拝みにくるようになった。「このあたりがオチでしょうか、ははは」なんて遠藤さんは笑っていました。

――監督のイメージも遠くありませんか。

ええ。もしかしたら息を引き取る間際、頭がぼんやりしてきて、恋した美しいマドンナたちの姿が走馬灯のようにかけめぐったんじゃないかな。

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