「空き家や空き地」がカギになる2030年の都市計画 変容する「都市の空間」を使った問題解決の方法

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渋谷や新宿で新しい開発が行われたところで、東京で暮らす大多数の人たちが身の回りで抱えている問題が解決されるわけではない。社会のあちこちで起こり続ける問題を、空間を使ってどのように解決することができるのだろうか。

縮小する都市の「新たな問題解決手段」

そこで都市計画の専門家が最近になって目を向けつつある新たな問題解決の手段が、人口減少、世帯減少にともなって顕在化してきた、古くなった建物や空き家や空き地である。

リノベーションという言葉はすっかり一般的になり、空き家活用、空き地活用という言葉も耳にするようになった。いずれも、古く低利用な空間に少し手を入れることで新たな価値を吹き込み、問題を解決する取り組みである。

古い住宅が所有者の厚意によって安価に貸し出されて地域福祉の拠点になっていたり、空き地が地域の人に無料で貸し出されてコミュニティー農園になっていたり、貧乏だが夢のある若者が資金を出し合って空き家を自分たちの拠点に改造したり、そんなことがあちこちで行われている。

それはこれまでの都市計画と同じように、2030年のXと、2023年のYの差分であるZを使って、都市の問題を解決する取り組みである。しかし、これまでの都市計画と大きく異なるのは、X>Yではなく、Y>Xであること、Zがプラスではなく、マイナスであることにある。人口は生物であるので、亡くなった瞬間にイチがゼロになる。しかし空間は非生物であるので、使われなくなった瞬間にゼロになるわけではない。たとえば放置された空き家は、5年、10年の永きにわたって都市に残り続けるのである。

この長く続く、イチとゼロの「あいだ」の状態を捉え直し、そこに問題解決の手段としての可能性を見いだしていこう。

これから私たちの都市はゆっくりと縮小していく。そしてそこには空いた空間が顕在化する。悲観的には、それらは無駄なもの、維持管理のコストがかかる「お荷物」として捉えられる。楽観的には、それらをこれからも都市で増え続ける問題の解決手段として捉えることもできる。

あちこちに顕在化する空いた空間に、いろいろな人が、自分たちの、あるいは身の回りの他者の問題を解決する空間を埋め込んでいく。そのちょっとした空間と2023年の空間Yとを足し合わせたところに、2030年の都市があらわれてくるのである。

饗庭 伸 東京都立大学都市環境学部教授

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あいば しん / Shin Aiba

1971年兵庫県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院卒業。博士(工学)。東京都立大学助手、同大学都市環境学部准教授を経て現職。専門は都市計画・まちづくりで、主に都市計画における市民参加手法、人口減少時代の都市計画、震災復興のまちづくり、東アジアのまちづくりを研究。山形県鶴岡市、岩手県大船渡市、東京都世田谷区などのまちづくりに関わる。主な著書に『都市をたたむ』(花伝社)、『津波のあいだ、生きられた村』(共著、鹿島出版会、日本建築学会著作賞)、『平成都市計画史」(花伝社、日本建築学会著作賞、日本都市計画学会論文賞、不動産協会賞)、『都市の問診』(鹿島出版会)などがある。

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