「空き家や空き地」がカギになる2030年の都市計画 変容する「都市の空間」を使った問題解決の方法

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例えば住宅をみると、世帯の増加にあわせて住宅は増えてきたが、これからすべての世帯が中古住宅を購入するとしたら住宅の総量YはXより大きくなり、Zは少ないどころかマイナスになってしまう。日本の人口が増加しているときは、Yの量は少なく、Xの量は多く見積もられ、Zの量は多かった。当時の人たちはそのZに多くの夢や欲望を詰め込んで未来都市の夢を語ることができていたが、もはや、未来都市の大半は現在の都市で構成されていることがはっきりとしている。

2030年の都市が今の都市と大きく異なるか、そこに未来都市が出現するか、という問いに対して、「そんなことはない」が大きな答えである。

「夢や欲望」と「問題」の総量は増大する

都市計画は都市の空間を使って社会の問題を解決する政策の体系である。逆に言えば、空間がつくられないところには、介入の手段を持たず、都市計画で社会の課題を解決することはできない。すでに道路がある都市の交通利便性を都市計画で向上させることはできないし(交通ルールを変えたり、個々の自動車の性能をあげるしかない)、十分に住宅がある住宅地において、新たな住宅をつくることでその性能を向上させることもできない。

例えば、住宅の最新形はZEH(ゼッチ)と呼ばれる「エネルギー収支をゼロ以下にする住宅」であるが、ZEHによって未来のゼロカーボンシティをつくろうと意気込んだところで、現実的にはソーラーパネルを乗せた住宅が、パラパラと出現するだけであり、それが「シティ」と言えるほどの1つの面を構成することはできない。つまり私たちは都市計画によって、ゼロカーボンの課題を十分に解決することができなくなっているのである。

しかし、少し減ったとはいえ、2023年の人口は1億2477万人もいる。そこにうずまく「夢や欲望」の総量は膨大なものであるだろうし、人口が減っても、社会の問題の総量が減るとも限らない。問題は絶えず発見・発明される傾向があるので、むしろ社会の問題の総量は増えていくかもしれない。

そしてそれらを少ないZで解決することはどんどん難しくなる。大都市においてですら、新しい都市開発は都心に集中している。その開発でつくり出される新たな空間によって、社会の問題は少しは解決されるが、それ以外の大半の場所の問題が解決されることはない。

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