なぜ東大を頂点とする大学序列が固定されたのか 『「反・東大」の思想史』尾原宏之氏に聞く

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『「反・東大」の思想史』著者の尾原宏之氏
[著者プロフィル]尾原宏之(おはら・ひろゆき)/甲南大学法学部教授。1973年生まれ。97年早稲田大学卒業、NHK入局。東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学。博士(政治学)。専門は日本政治思想史。首都大学東京助教などを経て、2022年から現職。著書に『大正大震災─忘却された断層』など多数(撮影:尾形文繁)
近代化を進めるエリート養成機関として誕生した東京大学。今も昔もその権威は絶大だ。一方で、東大の創設当初から慶応義塾などの私学はじめ東大に抵抗する勢力が登場していた。著者は抵抗の歴史をひもとくことで「東大信仰」の問題点を指摘する。
「反・東大」の思想史 (新潮選書)
『「反・東大」の思想史 (新潮選書)』(尾原宏之 著/新潮選書/1980円/320ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

──4月に慶応大学の塾長が「国公立大学の学費を上げ、私大との公平な競争環境を整えるべきだ」と発言しました。明治期にも福沢諭吉が同様の主張をしています。

福沢は「教育を受けさせるのは子どもを成功させたい、という親の私情によるもので、公共の資金を支出するべきではない、私学に教育を任せるべきだ」と主張した。

福沢は政治や軍事、経済、学術などさまざまな領域が自立し、競い合うことが文明化の動力になると語る。1つの価値が支配的な地位を占めず、多元的な要素がせめぎ合うダイナミズムこそが国家に進歩をもたらすと考えていた。その意味で、政府が官学をつくり民間の学校を抑圧することは、文明化を阻害する行為にほかならない。

ただ、当時の東大は政府の手厚い補助があり、授業料が相対的に安く、教育体制も充実していた。法律学科の卒業生は無試験で判事・検事の候補生や弁護士になれるなどさまざまな特権もあった。若者にとって東大への進学はエリートの地位の獲得と直結する。そのため、官学の地位が高まる一方、私学は衰退していった。

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