これがこの1年間でヒデアキさんが経験したある派遣会社の実態だ。その会社は全国に支部やグループ会社を展開、テレビCMに人気お笑いコンビを起用するなど、決して小さな企業ではない。
それにしても、ヒデアキさんの法律関連の豊富な知識と、会社に対して毅然と物申す胆力には驚かされる。現実は、不当な扱いだと思っても、それなりの覚悟を持って権利を主張しなければいいように丸め込まれるだけだ。知識がなければ丸め込まれたことにも気が付かないだろう。
「法律の条文はたしかに難しいのですが、理解できた瞬間がすごく楽しいんです」とヒデアキさんは言う。ただここまで不誠実な対応を繰り返されると、ストレスはたまる一方でメンタルも限界を迎える。昨年末にはうつと診断され、現在は個人加入できるユニオンに入り、会社側との話し合いを続けている。
声を上げないことが労働環境を悪化させる
1人で会社と渡り合うには限界がある。だからこそヒデアキさんが加入したような労働組合が必要だというのが私の持論である。しかし、世の中には会社に不満があるなら辞めればいいという人も少なくない。本人の性格や家庭の状況など人にはそれぞれ事情があるから、私も何が何でも闘うべきだとは思わない。ただ声を上げないことが、悪質企業をはびこらせ、労働環境を悪化させる一因になってきたことは否定できないのではないか。
ヒデアキさんは高校を卒業後、飲食店などでのアルバイトで生計を立ててきた。複数の仕事を掛け持ちしたこともあれば、バイトリーダーを任されたこともある。なぜ高校卒業時に就職活動をしなかったのかと尋ねると、当時は漫画家を目指していたのだという。
出版社の編集部に原稿を持ち込んでは玉砕する――。これがヒデアキさんの青春だった。ある時から出版社巡りに付き合い、落ち込むヒデアキさんを励ましてくれるようになった女性が現在の妻だという。そして30歳を過ぎたころ、子どもができたことをきっかけに「まずは家族のために生きよう」と決めた。
その後は郵便局や警備会社の契約社員として働いた。ただ郵便局では毎日1、2時間のサービス残業や、ノルマ達成のためゆうパックや年賀はがきなどを自腹購入させられる“自爆営業”が常態化していた。警備員も派遣される現場がないときは収入が途絶えるなど、安定した稼ぎを得ることが難しかったという。
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