老化を認めるのは、親にとっても子どもにとっても簡単なことではありません。「自分はまだまだ大丈夫」「うちの親は元気だから」などと、親も子どもも、どこかに老化を認めたくない気持ちがあるものです。
しかし、老化は年を重ねるごとに、誰しもに訪れる現実です。多くの場合、体が弱ってからや、介護で大変な時期に差し掛かる前の段階のほうが、正直な気持ちを言えたり、素直に頼めたりする人が少なくないように感じます。早い段階から親を知ろうとすることで、親の希望や価値観を少しずつ掴んでいきましょう。
私も今、娘として年老いた父親を見守っている1人ですが、親とはいえ自分とは別人なので、考え方や価値観をすべて理解しようとするのは、どうしても難しい。幼い頃のしつけが親の価値観とも限らず、それこそ日々発見の連続です。
親子だからこそ感情が邪魔したり、先入観を持ってしまったりもするため、一筋縄ではいかない部分もありますが、それでも親を知ろうとすることは大切だと実感しています。
なるべく早い段階で、親がどれくらいの関わり度合いを求めるかなどの希望を聞きながら、自分が関わることができる現実的なラインも見定めつつ、関わり方について話しておきましょう。
親だけでなく、兄弟がいれば兄弟同士で関わり方について話し合っておくことも大切です。見守るうえでのスタンスを話し合っておくことで、互いに意識のギャップを感じることなく、いざというときにも動きやすいと思います。
施設への入居も選択肢の1つ
ここまでは自宅で介護する前提でお話ししてきましたが、生活における困りごとが増えてきたり、自宅での介護に限界を感じたりしたら、施設に入居するのも選択肢の1つとして考えてみてください。
大切なのは、家族が介護を誰かに委ねたり、施設に入れる選択を「悪い選択」だと思ったりしないことです。介護の負担が増すと、夫婦関係や親子関係がギスギスしてくるケースも出てきます。
その場合は、無理に自宅での生活を続けるより、施設での生活のほうが介護する側・される側にとってよい場合も十分にあります。また、施設でいろんな人と接することが心身ともに良い作用をもたらす場合もあります。
冒頭のA子さんも今、母親の施設入居を考えています。自宅での生活を続けるのが難しくなる大きな境目の1つが、自力でトイレに行けなくなったときです。実際、私が関わっている患者さんやそのご家族のなかにも、排泄介助が必要になったことをきっかけに、施設入居を選ばれる方がたくさんいます。
問題は、介護される側が入居を希望するかどうか、です。A子さんの父親も、排泄介助の負担が積み重なるなかで、妻を施設に預けたいという思いが出てきているそうですが、母親は「施設には入りたくない」という意思が強く、本人の希望をどこまで尊重すべきかについても頭を悩ませています。
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