老老介護の限界を感じた娘が出した「2つの選択」 明け方に何度もオムツ交換…負担を軽くしたい

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こうした場合、家族全員が100%満足できる結論を探ろうとしても、それは残念ながら難しく、どこかで折り合いをつけることが必要です。「施設に入らず、自宅で過ごしたい」という本人の希望はもちろん大事ですが、介護している側に負担がかかりすぎてしまうのはよくありません。支える家族側の人生も大切にすべきです。

こうしたことを踏まえて私がA子さんに提案したのは、「父親の負担を減らすためにも、母親に二択を提示してみる」というものです。

1つめの選択肢は、今後も自宅で過ごしていきたいなら、「オムツ交換の回数を減らすのを受け入れる」というもの。少なくとも、オムツ交換のために毎朝父親を起こすのはやめて、ある程度は濡れている状態を我慢してもらいます。

オムツ交換の頻度を「濡れたら都度」ではなく、例えば「日中ヘルパーが来たときを中心に、1日◯回」などにするのです。定期的なオムツ交換で耐えられたら、父親の負担もぐっと軽減されるはずです。

厳しいようですが、もしそれを受け入れられなければ、施設に入ってもらわないと難しい、と伝えるのもときには必要で、この施設入居が2つめの選択肢となります。「施設に行きたくない」という本人の思いを尊重するなら、本人も何かを譲歩する姿勢が大切です。

夜間のトイレ介助やオムツ替えは介護の大きな問題の1つ(写真:筆者提供)

第三者の意見を聞くのも手

こうした折り合いをつけるときは、在宅医やケアマネジャーなど、医療や介護に関わる第三者の意見を聞いてみるのも手で、より適切な判断がしやすいと思います。

誰かに負担が集中しすぎていたり、黙って我慢している状態は、後悔を生みかねません。家族の様子も鑑みながら、その時々に適切な選択肢を考えるサポートをするのも、在宅医の大切な仕事の1つだと感じています。

A子さんも、母親に二択を提示してみるという提案を聞いて、「相談してよかった」「モヤモヤしていた迷いがすっきりした」と言ってくれました。

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困っている渦中にいるときには、どう前に進めばいいかわからなくことがあります。しかし何か迷うことや困ったことがあれば、家族だけで悩むのではなく、医師や看護師、ケアマネジャーなど、第三者の意見もぜひ聞いてみましょう。

もし第三者との関わりが始まっていなければ、まずは地域包括支援センターに相談してみるとよいでしょう。本人と家族がよりよい時間を過ごすためにも、困りごとは抱え込まず相談してほしいと願っています。

(構成:ライター・松岡かすみ)

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中村 明澄 向日葵クリニック院長 在宅医療専門医 緩和医療専門医 家庭医療専門医

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なかむら あすみ / Asumi Nakamura

2000年、東京女子医科大学卒業。国立病院機構東京医療センター総合内科、筑波大学附属病院総合診療科を経て、2012年8月より千葉市の在宅医療を担う向日葵ホームクリニックを継承。2017年11月より千葉県八千代市に移転し「向日葵クリニック」として新規開業。訪問看護ステーション「向日葵ナースステーション」・緩和ケアの専門施設「メディカルホームKuKuRu」を併設。病院、特別支援学校、高齢者の福祉施設などで、ミュージカルの上演をしているNPO法人キャトル・リーフも理事長として運営。近著に『在宅医が伝えたい 「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』(講談社+α新書)。

 

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