筆者は知人のドライバーも含め、都内の複数箇所でタクシーを利用して話を聞いたが、共通していたのは「近年で最も忙しい」という意見だった。
タクシーという交通インフラは、その特性上“待ち”の時間も多い。ところが11月ごろから、待ち時間がほとんどないほど、乗車率が高かったという。ある大手社で働くドライバーの武田さん(仮名・50代)はこう話す。
「(昨年)12月はコロナ前の水準よりも忙しかった。台数が減っている兼ね合いからか、迎車やアプリでの配車が増え、流しの営業や付け待ちがほとんど必要ないほど乗車率が増えたんです。コロナ前の隔日勤務当たりの平均を20回だとすると、25は優に超えていました。そんな背景もあってか、日収もコロナ前を超え、1万5000円ほどは高くなっている感じです。
ただし、これは単純にタクシー台数が足りていないから起きている現象であり、もし今後、通常時に戻るようなことがあれば、どうなるかはわかりません……」
都内のタクシー業界では、昨年11月に大きな出来事があった。それは東京23区と武蔵野市、三鷹市でタクシー料金の値上げが実施され、初乗りは1052m420円から、1096m500円となった。値上げ幅は約14%増と1989年以来の上昇率だ。
そんな状況にもかかわらず、タクシーが捕まらないという少し奇妙な状況になっているともいえるだろう。
値上げによる乗り控えがなかった
実際に複数のタクシー会社に問い合わせたところ、「これまでなら2、3カ月は乗り控えが行われてきたが、今回は乗り控えがなかった」という意見だった。さらに、乗務員の売上単価は伸び、売り上げ自体も好調だという。これは利用者が増えているというよりは、単純に稼働台数に対してタクシーの母数が足りていないという見方が妥当だろう。
筆者は継続的にこの業界の取材を行ってきたが、常々感じたのはタクシーを利用する一部の層による売り上げの比重は大きいということだ。値上げによる乗り控えの影響が少なかったのも、その富裕層が離れなかった点もある。
ただし、長期的な視点でいえば現在のようにタクシー不足の状況が続くとは考えづらい。事実、いまだに需要が追いついていない状況ではあるが、1月に入ってからは利用者の動きが落ち着いてきた、という声も目立つ。
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