轟木は、林田、世津子と同じ学校を受験した。
林田と世津子はよく勉強ができたが、轟木は苦手だった。ただ、苦手ではあったが全然できなかったわけではない。轟木の成績は中の上。ただ、林田と世津子が上の上だっただけである。
三人が目指したのは、函館工業高等専門学校だった。函館市内にある国立の高等専門学校で、通称「高専」と呼ばれている。主に工業・技術系の専門教育を施す五年制(商船は五年六か月)の教育機関である。
この時、轟木と林田はまだ芸人を目指していなかった。高専は比較的自由な校風で、就職率も良い。ただ、偏差値は62〜63で、北海道内にある高校486校中21位、国公立15校中だと1位と、非常に高い偏差値を誇る。受験前の面談では、轟木だけは確実に落ちると先生から太鼓判を押してもらっていた。
だが、負けず嫌いの轟木は、
「俺はやればできる男だ」
と引かなかった。
林田は冷静に、三人一緒の高校に行くなら、
「俺たちがゲンちゃんに合わせればいいんじゃない?」
と、言ったが、世津子は、
「ゲンちゃんなら絶対大丈夫!」
と、轟木の尻を叩いた。
それで決まった。
轟木は必死にがんばった。世津子の応援と、林田に勉強を教えてもらい、試験日一か月前から一日七時間以上の受験勉強にも取り組んだ。
高校受験の日、函館は大雪だった。
とはいえ、雪の町である。それで試験が中止になることはない。
風はなく、しんしんと雪は降り積もる。
真っ白な世界。
三人で一緒に受験会場に向かった。準備は万端だった。
轟木も過去問題をやれば、ほぼほぼ合格ラインの点数を取れるまでになっていた。
「これで受からなかったら、ゲンちゃんは、よっぽど神様に嫌われてるとしか思えない」
世津子はそう言って、轟木に合格祈願のお守りを手渡した。
「余裕だろ?」
轟木は胸を張った。かつてないほど勉強に打ち込んだ。
(もしかして、俺、勉強するのが好きなんじゃないか?)
と、勘違いしてしまう日もあった。
だが、結果は不合格。
轟木は一人、高専受験に失敗した。
俺たちはずうっと一緒だ
応援してくれた二人には悪いと思ったが、轟木に後悔はなかった。やれるだけのことはやったという達成感もある。それに、文句を言っても「落ちた」という現実が変わるわけではない。
受かって喜ぶべき世津子のほうがくやし涙を流しているので、轟木は、
「神様に賄賂を渡し忘れた結果がこれだ」
と、笑い飛ばした。
公立高校は受かったので、轟木は一人で公立に行くことを決めた。
春。
入学式の日、轟木は自分の目を疑った。
同じクラスに世津子がいる。
「お前……」
世津子は高専入学を蹴って、轟木と同じ公立高校に通うことにしたのだ。
しかも、偶然同じクラスになった。
「神様にたくさん賄賂を贈った結果がこれである」
世津子はしたり顔でほほえんだ。
「私たちは、ずうっと一緒だからね?」
(ああ、俺たちはずうっと一緒だ……)
(1月12日配信の次回に続く)
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