5年前に逝った妻、過去に戻り会いに行く男の真意 小説「思い出が消えないうちに」第2話全公開(4)

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カツカツと音がして、階下から玲司が戻って来た。

「……すぐ、きます」

すでに轟木は例の席に座っているのだと思っていた玲司は、カウンター席からまだ腰すら浮かしてない轟木を見て、不自然に目を泳がせた。

だが、それが呼び水となったのか、轟木は、やっとカウンター席から立ち上がり、ゆっくりと過去に戻れる椅子に向かって歩き出した。

数と幸が階下から姿を見せた。

数は長袖のデニムシャツに黒パンツ、エプロンなし。幸は、襟と袖口にかわいらしいフラウンス付きの花柄ワンピースに水色のエプロン姿である。

例の席の前で立ち尽くす轟木に、

「お話は聞きました」

と、数が語りかけた。

「では、あなたがユカリさんの代わりにコーヒーを?」

轟木は、コーヒーを淹れるのは声をかけて来た女性だと思ったに違いない。

「コーヒーを淹れるのは、私の娘です」

だが、数には、

「いいえ」

と返され、困惑した。

「え? じゃ、誰が?」

「コーヒーを淹れるのは、私の娘です」

数はそう言って、傍に控える幸を見た。

「時田幸です」

幸は、礼儀正しく轟木に頭を下げた。

轟木は、一瞬狐につままれたような表情を見せたが、すぐに、

(時田家の女は、七歳になるとコーヒーを淹れることができる)

と、昔、ユカリから聞いたことを思い出した。

(なるほど)

と、思う。今はこの子がコーヒーを淹れているのだ。

「……よろしく」

轟木は、そう言って幸に笑いかけた。幸もにこりと笑顔を返した。

「準備してきなさい」

数に言われて、幸は「はい」と返事をすると、そのままトテトテと厨房に姿を消した。当然のように、あとを流が追う。

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