フードロスを生む「資本主義」を分解する人の挑戦 「おいしい」「うれしい」と思える仕組みを作る

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大阪の「ばんざい東あわじ」もまた、どこまでも知識の触手を広げている保田さんに教えていただいた取り組みです。圧倒的です。ものすごく元気をもらえるプロジェクトの全体像は……。以下、ご紹介しますね。

snailtrack 代表の本川誠さん(撮影:保田さえ子氏)

「ばんざい東あわじ」は、2021年、大阪市東淀川(ひがしよどがわ)区の古いショッピングモール内にオープンした「循環型地域食堂」。大皿に盛って並べた5、6品の日替わりのおばんざいを、1g1円で提供しています。

運営元の株式会社Snailtrack は、草取り、掃除、買い物代行といったお手伝いサービス業から、子どもたちの放課後の居場所づくりまで、地域の人たちの「お困りごと」ベースの小さな事業を次々と立ち上げてきた企業です。

シニア層の尊厳を疎かにしてはいけない

食堂オープンのきっかけは、同じモール内のスーパーの突然の撤退でした。モールの上階は1400世帯が入る分譲マンションですが、築40年以上が経ち、高齢者が大半を占めます。買いもの難民が生じること、住民同士が顔を合わせる希少な機会が失われることは想像に難くなく、同社代表の本川誠さんは、「食事の問題は宅食サービスで解決できるという考えもあるだろうけれど、僕らは『エサみたいに送られてくる食事は嫌。自分で選びたい』という声を聞いた。シニア層の尊厳を疎かにしてはいけないと思った」と語ります。

食べ物をロスにせず、地域で循環させる「親切な冷蔵庫」。おばんざいの余分もここに(撮影:保田さえ子氏)

同社の営む無料の子どもの居場所スペースを、始業までの空いた時間帯に食堂として共用することや、多くのボランティアの手で運営することによってコストを抑え、懐にもやさしい、日常の食の提供の場を開いたのです。

店先には、コロナ禍のアメリカで始まった運動にならったという、カラフルなペイントを施した「親切な冷蔵庫」を設置。中には、14時の食堂閉店後に余ったおばんざいの食べ物をロスにせず、地域で循環させる「親切な冷蔵庫」。おばんざいの余分もここに詰め合わせや、近隣の住民から寄付された賞味期限間近の食品などが置かれ、誰でも自由に持ち帰ることができます。食堂と地域のフードロスを未然にすくい上げ、暮らし向きの苦しい人たちの助けになるようつないでいく仕組みです。

「僕には幼少期の貧困という原体験がありますが、それを持たない大学生のボランティアさんたちは、『いつも冷蔵庫から無料の総菜を持って行くあの人は本当に困窮しているのか』と悩んだりもしています。でも、本当かどうかなんて神様にしか決められないこと。僕は、学生さんたちにそこを学びに来てもらっているのだと思っています。そうでなければ、自分たちの支援したい仕方で支援できる対象を探す、支援ポルノになってしまいますから」

と本川さんはおっしゃっていて、「懐の深さ」とか「愛」という言葉を思い出してしまいました。綺麗な言葉を並べても、中身に愛がない活動ってたくさんありますもん。まあ、国会なんかの官僚答弁とか政府答弁とかに苛立つことたびたびの私の個人的意見ですが。

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