フードロスを生む「資本主義」を分解する人の挑戦 「おいしい」「うれしい」と思える仕組みを作る

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三重県津市の農家、橋本力男(りきお)さんの元で「C(炭素)・N(窒素)・B(微生物)・M(ミネラル)」の適切な配合を基本とした良質な堆肥づくりを学んだのちに、再びネパールに渡って理論と技術を伝えたのです。

この取り組みはネパールの国家事業となり、実証実験地となったティミ市では、市民からの生ごみ回収から堆肥化までのシステムの構築に成功しました。2020年には堆肥づくりの技術者を育成するコンポスト(堆肥)学校が開校し、ネパール各地への技術の展開、その堆肥を用いた有機農業の普及を目指しています。

コロナ禍となった2020年春以降、日本国内でもコンポスト普及活動を始めた鴨志田さんは、温泉街、大学、保育園などを拠点とした「生ごみや地域の未利用資源(落ち葉などの廃棄物)の堆肥化〜堆肥の活用〜作物の地域への還元」という資源循環を軸としたコミュニティづくりを進めています。

そして2021年、三鷹市の自家農園で始動したのが「鴨志田農園CSA」(注:CSAはCommunity Supported Agriculture の略。地域支援型農業のこと)です。

東京近郊在住で農園の野菜を年間購入する会員が、落ち葉・籾殻(もみがら)・米ぬか・壁土を配合した床材入りのコンポストケースを各戸に置いて、日々の生ごみを投入して堆肥化の一次処理を実施。それを農園で回収して二次処理を施し、完熟した堆肥を畑に活用する仕組みです。

家庭で生ごみを入れるコンポストケース(撮影:保田さえ子氏)

「水分を多く含む生ごみは焼却処理にかかる負荷が大きく、環境への影響の観点からも減らしていくべきですが、元栓を締めるようにゼロにすることはできない。でも堆肥化の技術があれば、蛇口から垂れ流しにせずに資源として生かし、循環させられます。それがおいしい作物となって返ってくる喜びが何よりです。僕は、このCSAの仕組みを他の農家さんたちにも活用してもらい、畑を拠点とした循環コミュニティをあちこちに広げていきたい」(鴨志田さん)

常日ごろ、これからの子どもたちに残していく食のこと、地球環境のことなどを考えているはずの自分が、一方でごみを出し続ける側だという現実はとても切なく、日々のことなだけに、ちくちくした痛みがあります。

少しでもごみを減らせるように、例えば使い捨てのラップの代わりに晒(さらし)を使ったり、毎日の生ごみのうち、お茶がらだけでも土に還そうと、ベランダのプランターのひとつをそれ専用にして、自己流で埋めたり。どうしていけばいいのかという葛藤の中でずっと考えていたのが、生ごみコンポストのことでした。

義務感が消え「自然の循環に参加している」明るさに

昨年、鴨志田さんの畑を訪ねて一番心惹かれたのは、実践していることの具体性でした。職業人として詰めてきた理論や技術の確かさが、積み上げられた堆肥からまったくにおいがしないことや、手に触れた堆肥の温かさから伝わってきたんです。

完熟堆肥の山。手を入れるとほかほか(撮影:保田さえ子氏)

あの温かさが、そこに生きている微生物たちの分解する力を感じさせてくれるし、あの温かさを1カ月以上も保っているからこそ、作物にとって有害な病原菌などが死滅して、質のよい堆肥になる。その堆肥をまいた畑では、皮ごと焼くとすごくおいしい、あの里芋ができる……という風に、具体性の積み重ねが血肉となっていることにすごく希望を感じます。私が台所でやっていくのも、そういう具体的なつながり。具体的なものこそが次へ次へとつながって先に進むのだな、と思えたのでした。

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