「大加速(グレート・アクセラレーション)」はこの目標の固定化の産物であり、生物界の「大衰退(グレート・ディクライン)」はその結果だ。
なぜなら、限りのある惑星で限りのない成長を成し遂げるのは、どこか別の惑星から補充でもしない限り、不可能だからだ。
現代の奇跡に思えたものの実態は、収奪だった。わたしたちが使っているものはすべて、生物界から直接取ってきたものだ。しかも生物界に与えるダメージを無視して、わたしたちはそうしてきた。
食用のニワトリの飼料にする大豆を栽培するため、森林を切り開くとき、生物種が失われることは考慮されない。
水が入ったペットボトルを買っては捨てるとき、海洋生態系への影響は考慮されない。
建築に使うコンクリートを製造するとき、温室効果ガスの排出は考慮されない。
これではわたしたちが地球に加えるダメージが知らないあいだにどんどん積み重なっていったのは当然だろう。
環境経済学が期待する「グリーン成長」
経済学の中にも、この問題を解決しようとしている新しい分野がある。持続可能な社会の構築に重点を置く環境経済学と呼ばれる分野だ。環境経済学は、経済のシステムを変革することで、世界じゅうの市場を利益(profit)だけでなく、人(people)と地球(planet)のためにもなるものに変えようとめざしている。それらは「3P」と呼ばれる。
環境経済学の多くの研究者が大きな期待を寄せるのは、「グリーン成長」つまり環境に悪影響を及ぼさないタイプの成長だ。
グリーン成長は、エネルギー効率の高い製品を開発するとか、環境負荷の大きい有害な人間活動を、環境負荷が少ないか、まったくないクリーンな人間活動へ転換するとか、環境負荷が少ないデジタル世界(再生可能エネルギーで電力をまかなえば)の成長を促進するとかいう方法によって引き出しうる。
グリーン成長の支持者たちが指摘するように、歴史を振り返れば、人類の可能性を大きく切り開くイノベーションの波は繰り返し起こっている。
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