強制入院4回に「強い疑問」、統合失調症の男性訴え 「精神医療問題」身体拘束の数は約10年間で2倍

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精神科病床では医師の配置人数が一般病床の3分の1、看護師は3分の2と少ない基準が認められている。 医療現場で医療スタッフが不足するなか、いわば病院の都合で身体拘束をしている事例が多いと聞く。

また、強制入院では医療者と患者の間に上下の序列が生じやすく、身体拘束に対する人権意識が乏しくなりがちともいわれている。精神科病院を退院した患者の調査(*2)では、回答者の約8割が「悲しい」「つらい」「悔しい体験をした」と答え、「入院によって人生が変わってしまった」という声も多かった。

身体拘束で死亡する例もある

身体拘束は体への負担が大きい。長時間足を動かさずにいることで足の静脈に血栓ができ、一部が血流に乗って肺の血管を詰まらせる、いわゆるエコノミークラス症候群が起き、突然死にもつながる。昨年は、石川県で40代男性が身体拘束によるエコノミークラス症候群で亡くなった件で、高裁で医師の身体拘束の指示は違法性が認められるとする判決が出た。最高裁は被告の上告申し立てを受理せず、高裁判決が認められた。

今回、前述の身体拘束実施の要件を30年ぶりに改変し、「治療が困難」という言葉を加えることが提案された。長谷川教授は質疑で「今回の改正によって医師の裁量を広げる」と指摘するとともに、「そもそも、人身の自由、人権を制限する行為の要件が国会の審議を経ずに告示で定められていること自体、極めておかしいことです」と訴えた。

強制入院や身体拘束は今年9月、障害者権利条約に関する日本の状況に対する審査結果で、国連から「自由の剥奪を認める」と判定された。そして、「精神科病院への強制入院・長期入院の廃止」「障害のある人の地域での暮らしの保障」を実現するため、「すべての法的規定を廃止すること」を強く要請された 。

それでは、どんな人が強制入院になるのか。こんな実例がある。

神奈川県在住の堀合研二郎さん(42)は4回の強制入院を経験している。最初は大学3年(22)のときだ。統合失調症による妄想がひどくなり、措置入院になった。統合失調症とは、脳の働きの一部に異常が起こり、幻覚や妄想が生じたり、意欲や考える力が低下して引きこもったり、感情表現が乏しくなったりする。日常生活の出来事が発症のきっかけになることが多い。

堀合さんの最初の症状は不眠で、「夜眠れない、朝になっても眠れない」を1カ月以上繰り返すようになった。やがて、「自分が地球を動かしている」という感覚になったり、「世界は終わりに近づいている」という妄想にとらわれたりするようになった。家族から「どういう意味か、何が心配なのか」と聞かれても答えられず、話は要を得なかった。

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