強制入院4回に「強い疑問」、統合失調症の男性訴え 「精神医療問題」身体拘束の数は約10年間で2倍

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日本では2002年ごろ、伊藤医師が国立精神・神経センター(当時)勤務時代から千葉県を中心にACTを始めている。以来、全国でACTタイプの活動が広がりつつあるが、診療報酬が入院優先で組まれているため、労力に見合う収益を得られる制度設計になっているといえず、普及が難しくなっている。

地域での生活では、グループホームで共同生活を体験することもできる。ここではスタッフの生活支援を受けながら利用者は自分の部屋で過ごし、食事はリビングでほかの利用者とともに食卓を囲む。数年間の期限付きで一人暮らしの準備を進めていったり、そのままグループホームで生活を続けたりする。最近はプライバシーを尊重するワンルームのアパートタイプも増えているという。

2035年、強制入院廃止を実現させる

このように、地域での生活環境を整備する取り組みが進むとともに、日本弁護士連合会(日弁連)では、2021年、同会人権擁護大会で「精神科病院の強制入院廃止」を決議し、それに向けたロードマップを発表した。2025年には強制入院は国公立病院に限定する、強制入院の入院期間の上限を23日間に限定することとして、入院患者数を5万人に減少、2030年には2万人に減少、2035年には強制入院廃止を実現させていくという。

精神科病院への強制入院廃止に反対する人の中には「精神疾患のある人は何をするかわからない」と誤解をしている人もいる。しかし実際は、刑法犯の検挙人員総数のうち精神障害のある人は1.0%(*5)だった。

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伊藤医師は 「精神医療と社会防衛を結び付けるから強制入院が残っていきます。もし、精神疾患のある方が犯罪を起こしたら、それは精神科病院でなく、警察と検察、および司法にお任せすべきです。精神医療は拘置所などへも訪問して本人の支援をするなど、あくまで患者のための医療に徹するのがよいと考えます」と話す。

精神医療のこのような問題点は、日本でも先進的に気づいた人が50年前から同じことを指摘し続けてきた。厚生労働省が「共生社会の実現」を掲げるのであれば、今こそこれらの課題を改善しなければならない 。

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*1 本稿における質疑に関する内容の出典:予算委員会・TV中継、国会質問「上から目線の物価高対策、施し目線の障がい者政策。」参議院議員 天畠大輔議員ホームページ
*2  山口亮弁護士「悲しい・つらい・悔しい体験とその後の人生~経験者1000人余りの声~精神科への入院経験を有する方々へのアンケート・インタビュー調査の結果から」(第63回日弁連人権擁護大会<2021年>から)
*3  厚生労働省[2018],「最近の精神保健医療福祉施策の動向について」(第1回精神保健福祉士の養成の在り方等に関する検討会・資料2のp.4)
*4  日本障害フォーラム(JDF),第14条 身体の自由及び安全障害者権利条約 日本の総括所見用パラレルレポート,p22をもとに著者が数字(少なくても1773人)をおよそで記述
*5 法務省 法務総合研究所編[2020],「第4編第9章 精神障害のある者による犯罪等 第1節 犯罪の動向」『令和2年版 犯罪白書』
参考:YPS横浜ピアスタッフ協会、蔭山正子編著[2018],『当事者が語る精神障がいとリカバリー―続・精神障がい者の家族への暴力というSOS』明石書店
長谷川利夫[2013],『精神科医療の隔離・身体拘束』日本評論社

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