善一さんからの贈り物
「おお、いいね。これは山みたいな形をしていて風流だ。お、こっちは船のような形をしていて、これも面白いね……」
私の拾ってきた石を書斎のテーブルの上に並べた途端、善一さんは顔を綻(ほころ)ばせ、石の世界へと没入してしまった。思っていた以上に、善一さんは石好きのご老人であった。私が「ほら、この石、気持ちいい手触りをしてるでしょ」などと自慢を投げかけても、適当なリアクションが返ってくるだけで、とにかく目の前の石たちを形で分類することに夢中になっている。
善一さんの書斎を見渡すと、ガラスケースにはたくさんの石たちが並んでいる。翡翠や蛍石などの鉱石や、化石、それに石を中国の山水画に見立てた置物など。聞けば何十年もかけて自分で採掘したり、マーケットで買ってきたりしたコレクションであるという。善一さんの「石好き」は、年季が入っているのである。
石の見た目の分類が一段落つくと、「まさかキミが石に興味のある者だったとは……」と善一さんは嬉しそうにお茶を差し出してきた。
「あ、いえ、べつにすごい興味があるわけではなく、今日たまたま石拾いに誘われて、ちょっとだけ石の面白さに気づいただけで……」
しかしそんな私の小声など善一さんは聞いてはおらず、いそいそとどこかの部屋に消えたかと思うと、新生児くらいのサイズ感の石を持って戻ってきた。
「はい、これ。生前贈与。『珪化木』っていう、まあ平たく言えば樹の化石ね。私もさ、そろそろ死ぬ前の整理をしなきゃいけないし、この石たちもどうしようかと思ってたんだけど、いやいや、キミみたいな石が好きな親戚がいてよかった」
……え?
「まあ、ゆっくり譲っていくことにするよ。とりあえず、今日はこの『珪化木』ね」
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