『手づくり市』で拾った石を売ってみた
その日は、絵に描いたような晴天だった。
雲一つないその秋晴れの下で、私は手製のカウンターを前に、石を売っていた。
用意されているのは、盆のうえに並べた小石たちと、「石ひとつ100円」とプリントされたA4用紙だけ。ペライチのその看板は、爽やかな風を受けて、ピラピラと端を揺らしていた。
近所の公園で開催されている『手づくり市』なるものに、私は出店者として参加していた。
なんの変哲もない石を、大真面目に売りたい。なんの変哲もない石を大真面目に売ることで、「不真面目な労働」をこの世に提示したい。「不真面目な労働」であっても金銭が得られることをはっきりと証明したい。そして、「真っ当な労働をすることでしか手に入らないもの」と思われていたお金の実の正体を、暴いてやりたい。
そんな謎の正義感に突き動かされて、私はこの『手づくり市』に参加していた。
出店の申請をする際、主催者側はかなり困惑の表情を浮かべていた。それはそうだ。だってこれは『手づくり市』なのである。他の出店者は、手編みのマフラーであったり、DIYで作った本棚であったり、自家焙煎のコーヒーを売ったりしているマーケットフェスなのである。そんな中で、「石を売りたいんですけど……」と言い出す猫背の男が現れたら、主催者側としてはそりゃ戸惑うだろう。
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