センター試験を"当日に投げた"彼のその後の人生 父の失職と不倫、止まらない夫婦間暴力の末に

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高校の頃、とてもつらかった。そう自分ではっきり認識できたのは、結婚して数年経った、20代半ばの頃だった。20歳のときに知り合って結婚した妻に、彼の母親が過去のあれこれを話したことがきっかけとなった。

「上の子が生まれて、子どもを連れて実家に行ったとき、妻から『昔の話を聞いたよ、本当に大変だったね。実家に帰らなくても不思議じゃないのに、こうやって孫を見せに帰ってあなたエラいね』みたいに言われて。『ああ、俺大変だったんだな、すごくつらかったな』って。そのとき初めて、自分で認められたんだと思います」

「男の子だから」と言われない社会に

逆に、祐太さんはなぜそれまで自分のつらさに気づけなかったのかというと、どうやら「もっと大変な人」と自分を比べてしまっていたようだ。

「別に私自身が殴られてきたわけでもなければ、リストカットしてきたわけでもない。『女子のほうが大変だ』とか『もっとひどい家もある』みたいに、どうしても比べてしまって。『男なんだから』と思って我慢しちゃって。当時は『なんてことない話だよね』と思っていたんですけれど。

でも、妻に言われて振り返ってみると、すごくしんどかった。だからもし、あのときに気持ちを認めてくれるひとがいたら、もうちょっと楽だったかなって。いま、もし同じような思いをしている年頃の子がいるなら、そういう子たちが相談できると思えるような、『でも君、身体が大きいからね』と言われないような社会ができればいいのかなって思います」

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相談できるような誰かが、どこに居てくれたらよかったですかね? そう尋ねると、祐太さんは考え込んだ。思い切って相談をした相手には「あなたなら大丈夫」と言われてしまったし、逆に踏み込まれすぎて、警察や児童相談所が出てきたら困ってしまう子もいるだろうという。

「そういう意味では、ネットの記事というのはいいかもしれません。私もいろいろ読んできて、『こういう人もいるんだな』とか『こういう気持ちになるものなんだな』とわかったので。それだけでも何か違うかも、という気がします」

これまで書いてきた記事が、そんなふうに誰かの役に立つなら筆者としてもうれしい。ただ、いま渦中にある中学生や高校生は、こういった記事を読んでくれているのか? もし読んでいたとしても、読むだけで本当にいいのか?

もどかしい思いはずっとある。もし話を聞かせてもらえるなら、話を聞きたい。

本連載では、いろいろな形の家族や環境で育った子どもの立場の方のお話をお待ちしております。周囲から「かわいそう」または「幸せそう」と思われていたけれど、実際は異なる思いを抱いていたという方。おおまかな内容を、こちらのフォームよりご連絡ください。
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