「4歳のとき、お母さんから『お父さんを殺してきて』と言われ、子どもながらに殺そうとしました」
都内に住む女性から届いたメッセージは、こんなひやりとする一文で始まっていました。父から母へのDVを頻繁に見た幼少期のこと、父との別居後に母から受けた虐待や暴言、兄から受けた性被害のこと、中学校の途中から児童養護施設に入所したこと──。時系列でそれぞれ短く記されており、そこから彼女自身の感情は読み取れません。
コロナがやや収束気味に見えた11月の週末、寧音さん(仮名)と待ち合わせた喫茶店は、ほぼ満席でした。やってきたのは美容師さんのような雰囲気の、おしゃれな20代の女性です。席につくと「緊張する……」と言って、周囲を見まわします。筆者も若い頃はこじゃれた喫茶店に入ると毎回緊張したもので、懐かしいような気持ちになりました。
話し疲れたら無理しないでね、と伝えると、「自分の話というより、映画を見ているような感じなので大丈夫」と、笑って答えます。感情を切り離さずにいられないような経験を、たくさんしてきたのでしょう。寧音さんのこれまでの人生を、聞かせてもらいました。
階段から落ちて動けなくなった母親を無視する父親
小さいときは両親、兄と4人で暮らしていました。両親はしょっちゅうけんかをして、つかみ合いをしたり、怒鳴り合ったり。父親は子どもたちには優しかったのですが、母親にはひどいDV、モラハラを行っていました。
「一度、母が階段から落ちちゃったことがあって。母は父に落とされたというし、父は落としていないというし、いまだに真相はわからないんですけれど。母は骨が折れて動けなくなっちゃって、でも父は救急車も呼ばないし、私たちにも『何もするな』と言う。私たちを連れて外食に行って、母のことは無視、みたいな感じでした」
仮にもしそれが父親のせいではなかったとしても、階段から落ちて動けない妻を放置して外食に行くという行為は、完全に常軌を逸しています。寧音さんは父親に隠れて、けがをして臥せっている母親にヨーグルトをもっていったりしましたが、「ばれたら私も父に何をされるかわからない」という恐怖を感じていました。
4歳のころには、こんなこともありました。ある朝起きて、キッチンに入ったところ、朝ごはんを作っていた母親から突然「ねえ、お父さん殺してきてちょうだい」と言われます。軽い口調でしたが、寧音さんは「ただならぬ空気」を感じ取り、そのまま父がいる部屋へ向かいました。「やらないと、(私が母に)やられる」と思ったのです。
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