それはおそらく教えていた先生たちも、寧音さんと同じかそれ以上にうれしかったことでしょう。その後も「職員さんたちみんなが、私に勉強させよう、させようとしてくれた」おかげで、寧音さんは高校を出た後に大学に進学します。そして奨学金を7つ使い、かつバイトをかけもちして、最後まで通ったのでした。
「いま思うと、あの時期に家を出られてよかったなって思います。もしあれより遅かったら高校にも行けてなかったかもしれない。あのタイミングが本当に、最後のチャンスだったのかもしれないなって」
母と暮らすストレスに拍車をかけたコロナ禍の生活
大学に入り、施設を出てからは一人暮らしを満喫してきた寧音さんですが、現在は再び母親と2人で暮らしているといいます。新卒で就職した会社は人間関係が悪く、転職した際に貯金がつきてしまったため、お金が貯まるまでの間、母のもとに身を寄せたのです。しかしやはり、母との生活は非常にストレスが大きいようです。
「暴力はなくなったんですけれど、母は自分のしてほしいことを私にさせたい。だからたとえば、私が電気を消し忘れると『電気はちゃんと消してください』という貼り紙をしたり、『私はこうしてあげているけれど、あなたの態度は何?』みたいな長文の手紙が、家に帰ってくるとベッドの上に置かれていたりする。私はそれで眠れなくなったり、帰ってきても貼り紙が怖くて玄関を開けられなくなったりして」
貼り紙や手紙──地味ながらも、じわじわと心を削られそうです。母親に何度も「やめてほしい」と伝え続けたところ、貼り紙はやっとなくなったそうですが、最近はコロナの影響で、またストレスが増しているといいます。
「リモートワークになって母といる時間が増えたときはしんどかったです。1時間に1度くらい部屋をノックされて、『今、何をしているの?』とか聞かれて、そのたびに『仕事だよ』と答えるのが、嫌になっちゃって。それに母が入っている宗教への勧誘もしつこいし」
早く母親と離れたほうがよさそうですが、お金が貯まるまでは、もうしばらく辛抱しなければならなそうです。今後は、友達とシェアハウスで暮らすことも考えているといいます。
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