部活からの帰り道、母親が泣きながら電話をかけてきたことも何度かある。父親の暴力を止めるのは怖かったが、家に妹がいることを思うと、自分が帰るしかなかった。ただ、佑太さんが家に着く頃には大体、けんかはクールダウンして口論に移行していた。父親も、体力的に息子には勝てないとわかっていたからだろう。
高3のときには、父親が職場の女性と不倫騒動を起こす。なぜか隠そうとしないので、母親もすぐに勘付いたが、父親は開き直り、ある日「出て行く」と告げて家を去る。そして3日で帰ってきた。佑太さんと母親が、銀行口座からお金をおろせないように手をまわしたからだ。
「父が戻ってきて、母的にはちょっとうれしかったんでしょうね。でもそのあとも、母がどうしてもチクチク嫌味を言うもんだから、もっとけんかが激しくなって。朝起きて台所に行ったら、父がナイフを取り出している、みたいなシーンも何回かありました」
「うちは駆け込み寺じゃないからね」
この頃、佑太さんは受験生だった。地元で有数の進学校に通っていたので、周囲は皆、部活が終われば勉強に打ち込み、大学の合否判定を気にしていた。うらやましかった。「なんでうちは『ふつう』じゃなかったのかな」と、よく考えた。
大人に相談をしたこともある。一時期身を寄せていた宗教施設には「相談役」と称する人物がいたので、会いに行って両親のことを話してみたが、少しも助けになってはくれなかった。
「『何かあったら来てもいいですか』って聞いたら、『うちは駆け込み寺じゃないからね』みたいなことを言われたのを、すごく覚えています。『(お父さんの暴力は)佑太くんが止められるでしょう』とも言われていて。
おばあちゃんも心配して何回か来てくれたんですけれど、やっぱり『何かあったら、あなた身体が大きいから止めてね』と言われるんですよね。『信頼してもらってるな』と思う反面、『お前がなんとかしろ』って突き放された感じもして、それが結構しんどかったな、と今になって思います。妹には『何かあったら連絡して』って言っていたみたいなのに」
いくら身体が大きくたって、中身はまだ10代の子どもだ。けんかをやめてほしいと両親に伝えてほしかったのに、「そういうことはちょっと……」と言って、誰も何もしてくれない。「大人って、本当にわかってくれないんだな」と感じた。
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