誤解多い「日本の中小企業の生産性低い」真の理由 労働生産性は「大企業の半分以下」にとどまる

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考えられる方策の1つは、ノウハウや財政などの支援により、そうした企業の生産性を向上させていく「底上げ」策である。これは、経済産業省が行っている「サービス等生産性向上IT導入支援事業」のように生産性向上に役立つデジタル化の取り組みに補助金を支給する事業や、ベンチマーク可能な生産性向上事例を収集・周知する事業などが代表的なものだ。

もう1つは、競争メカニズムが効果的に働いていれば、生産性の低い企業がいずれ市場から退出すること(簡単にいえば倒産や廃業)になり、生産性が高くて賃金も多く払える企業に集約されていくようにすることだ。そうすると結果的に日本全体の生産性も上昇することになる。

最低賃金の引き上げを通じて、それを払えないような企業を淘汰し、生産性や賃金がもっと高い企業に労働者や資金を移動させていくべきだとするデービッド・アトキンソン氏のような意見も、こうした考え方に基づくものといえる。

では、日本の生産性が低いのは中小企業が足を引っ張っているからなのだろうか。これは一部で正しく、一部で正しくない。

大企業の生産性を上回る中小企業もある

知識や資金、能力的な制約を抱える中小企業が多いこともあり、統計的に生産性の平均値でみるとどうしても大企業に見劣りしてしまう。

しかし、東京商工リサーチが提供する企業財務データベースを基に筆者が中小企業の生産性の分布をみると、必ずしも生産性の低い企業ばかりではない。従業員100人以下でも、労働生産性(従業員1人当たり付加価値)が2000万円以上の企業が3%程度存在している。

これは、不動産業のように業種特性的に生産性が高くなりやすい分野の企業が含まれていることもあるが、他の分野でもばらつきが非常に大きく、中には大企業の平均的な生産性水準を上回る企業もあることを示す。

実際、優れた技術やノウハウを持ち、ニッチな市場でリーダーになっているような中小企業では、大企業と遜色ない生産性水準や賃金水準になっていることも少なくない。

飲食店や各種小売業、コンサルティングや設計といった専門サービスなどの分野でも、事業環境の変化や消費者の嗜好をうまくつかんで成果につなげられるキーパーソンが1人でもいれば、生産性を高めて大企業と互角に渡り合うことは十分に可能だ。

そのようなやる気があって生産性の高い中小企業が規模を拡大させていければ、産業全体に活力が生まれ、生産性も改善していくことになる。

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