岸田総理の経済政策における1丁目1番地が、人材投資になることは疑いの余地がない。総理になって初めての経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)というのは、総理にとって独自の経済政策の方向性を示す場となるが、岸田総理は、具体的な政策を述べる章の冒頭に人材投資の育成を配している。
確かに、新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから2年あまりの間にわれわれは、日本の力不足を嫌というほど感じさせられた。感染に関する研究上の貢献は少なく、外国が開発したワクチンに依存し、感染者数の正確な把握もままならない状況に直面した。
コロナショックからの回復過程では半導体不足により、国内の多くの電機産業や自動車産業が減産を余儀なくされる事態は、半世紀前の2度にわたる石油危機によって、苦難の末に産業調整や雇用調整を行い、技術国家を築いた経緯を知る世代からすると目を疑うような惨憺たるありさまだろう。
政府がテコ入れしようとしているのは一部分にすぎない
岸田総理をはじめとする政権幹部の多くも(いや、一部の野党幹部も)上記の世代に属していることから、同様の危機感を抱いているに違いない。バブルが崩壊してから30年間、日本の人材はあらゆる分野で潜在的には優秀だという前提で経済を運営してきたが、今回の骨太の方針は、そうした前提が幻想であり、もう一度包括的な人材育成策が必要であると認識していることになる。
しかし、果たして現在の人的資本促進策が、人的資源の活性化を通して生産性の向上につながるのだろうか。以下では、現在の人材強化策を超えたより広い視野での人材育成策について考えていきたい。
最初に認識しておかなくてはならないのは、今回政府がテコ入れしようとしている人材育成というのは、多様な人材育成の中の一部分にすぎないということだ。
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