日本の場合、新たなシステム投資を行ったとしても、従来の業務スタイルをできるだけ変えないようにカスタマイズされているので、新たなシステムが力を発揮することもなく、従業員のスキルも向上していかない。
またコロナ禍によって、対面で仕事をする機会が減少すると、こうしたOJTの訓練効果は減少すると考えられる。
実際、新型コロナの感染拡大中に行った調査によれば、OJTを含む企業レベルの訓練の機会は減少しており、日本ではとくに若い世代と高齢者世代にその傾向が強いという結果が出ている。
伝統的な手法では政策効果に限界
これまでの説明から、政府の人的資本向上策は企業での訓練投資の充実を目指していることがわかる。しかしこの政策手段は政府の伝統的な手法にのっとっているがゆえに、その政策効果には限界があるともいえる。
そもそも企業がどれだけの人材投資をしているかは、企業の財務データからは見えにくい。このことが人的資本投資への補助策を難しくしていたわけだが、政府はこの問題を、会計的に人的資本投資を「見える化」することで政策の実現度を高めようとしている。
しかし、こうした会計上の開示ができるのは一部の大企業に限られており、農林水産業を除く産業の雇用全体の3分の2を占める中小企業の従業者のスキルアップに対応できるとは思えない。
この政策のもう1つの限界は、雇用の流動化の流れと整合的でない政策になっているという点である。
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