しかし現在の日本は、21世紀に入ってから他の先進国に後れをとり、ITリテラシーや金融リテラシーの不足が、日本の成長の阻害要因として指摘されるようになっている。このことは、日本で人的資本の形成や発展を語る際に、社会に出てからの訓練だけでは足りず、学校教育の過程も含めて考察する必要性があることを示している。
すでに日本政府の教育支出のGDP比が、先進国の中で最下位レベルであることはよく知られている。先ほど企業の訓練費用/GDP比と生産性との関係について紹介したが、教育支出/GDP比率と1人当たりGDP成長率の関係は、経済成長論の教科書で記載されるほど確固たる実証上の裏付けがあり、むしろこの指標の改善のほうが重要ではないだろうか。
「教員の不足」が甚大な影響を与える
さらに、この指標の改善以上に深刻なのは、教員の不足問題だろう。
初等・中等教育サービスもまた同様に政府が公共のために安定的に供給すべきサービスとして位置づけられるが、教員不足はまさにその安定的かつ先進的な教育サービスの供給体制が維持できていないということを意味している。
ところが、こうした事態への人々の関心は低く、所管官庁である文部科学省の責任は、電力不足に対する経済産業省の責任ほど追及されていない。より長期的な視点から見れば、教員の不足による教育の質の低下は、生産性にとどまらずこの国の成長に甚大な影響を与えることは間違いない。
企業レベルの訓練と生産性の問題は、10年ほど前から筆者が指摘し、今回ようやく政策として結実しているが、日本経済の衰退はこの10年間で予想以上に進んでいる。今回の人的資本の向上策を教育環境の見直しまで含めたより包括的なものにまで発展させなければ、今回の人的資本向上策も、早々に根本から見直さざるをえなくなるだろう。
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