人材育成の根拠の1つとして日本の人材投資額が欧米と比べて格段に低いという点があげられている。これは日本および欧米の生産性を計測するためのデータベース(日本はJIPデータベース、欧米はEUKLEMS & INTANProd データベース)に収録されている訓練投資をGDPで割った比率を比較したデータが基になっている。
確かに、日米欧の先進12カ国の長期的な人材投資/GDP比率と、1人当たりGDPの伸び率を取ってみると、緩やかながら相関性が見られる(
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このことは人材投資が増加しないと、スキルも向上せず、1人当たりの所得(GDP)が増えないことを示唆している。
非正規雇用の増加で訓練投資額が少なくなる
この人材投資の少なさと1人当たり所得または賃金の低さには共通の背景がある。それは非正規雇用労働者の比率の増加だ。非正規雇用労働者の比率の増加が、平均的な賃金の低下につながっていることは、労働経済学者によってよく指摘されている。
一方、人材投資のほうでも非正規雇用の増加は、訓練の対象となる労働者の比率の減少を意味する。つまり定型的な業務を行う非正規労働者には、相対的に少ない訓練となるため、企業側における訓練投資のメニューにそれほど変化はなくても全体的な訓練投資の金額は少なくなる。
すなわち非正規雇用の増加が、全体的なスキルの訓練投資の金額を少なくし、スキルの向上も十分に図られないため、賃金も上昇しないという負のサイクルが続いているのである。
ただ注意しなくてはいけないのは、ここでの訓練投資は日本の人材育成方法の主流ではなかったということだ。これまでの日本では製造業を中心に生産過程の中で訓練を行い、スキルを向上させるon the job training、いわゆるOJTが企業内訓練の主流を占めてきた。
平成30(2018)年度の経済財政白書によれば、このOJTによる企業内訓練は、業務をはずれて行う訓練投資の2倍あるとされている。日本企業の場合このOJT中心の人材育成を行ってきたので、業務をはずれて実施される研修はある意味では補完的であったといえる。
しかし、OJTの場合は既存技術の継承もしくは若干の改良に終わることが多い。もちろん高度成長期のように新規技術を備えた設備投資が行われれば新たな技術の習得につながるが、近年ではそうした新規投資そのものが少なくなっている。
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