迫る大量リストラ、理研研究者が募らせる危機感 日本の科学技術力に影を落とす可能性も

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たった1人の訴訟

理研を相手に訴訟を起こした研究チームリーダー
たった一人、理研を相手に訴訟を起こした男性は9月30日の第1回口頭弁論後の会見で、「もう理研を辞めようかとも思ったが、黙っているわけにはいかなかった」と語った(記者撮影)

一方、雇い止めされる研究者の中でこれまで唯一、理研を相手に訴訟を起こしたチームリーダーの研究者C氏(62歳男性)は、2023年4月1日以降も理研で研究を続ける権利がある地位確認などを求めている。その第1回口頭弁論が9月30日にさいたま地裁で開かれ、雇い止めの是非をめぐる戦いの火ぶたが切って落とされた。

C氏は2011年4月から理研で働いており、理研でのキャリアは間もなく12年になる。C氏にとっては、雇い止めを受けることはチームリーダーというポジション上、自身が主宰するプロジェクト自体が消滅することを意味する。理研からは今年1月から研究機材の撤去などを求められており、既に研究の継続に支障を来しているという。

まだたった1人の訴訟だが、その意味するところは小さくない。理研側と研究者側双方にとって、勝ち方や負け方は内容次第で、後の訴訟にも波及しうるからだ。

C氏は「雇い止めされる予定の研究者は困っている。3月末より前になるべく早く、理研のやっていることのの違法性、不法性を明らかにさせたい」と決意を語る。

A氏やB氏も、訴訟を選択肢から完全に外したわけではない。アクションを起こさなければ研究の道を完全に諦めざるをえないような最終段階にまで追い込まれれば、訴訟の道も「1つの方法として考えたい」とそろって話す。B氏は近く、訴訟も念頭に弁護士との話し合いを始めるという。

末は博士か大臣か―。かつて、子供を褒める言葉によく使われたほど、研究者は子供の憧れの職業だった。いま、日本一の名門研究所の理研で起きている雇い止めを巡るゴタゴタは、科学に関心を持つ子供の目にはどう映るのか。世界の中で科学技術力の相対的な地位低下が顕著な日本において、子供の科学離れを一層加速させることは避けられそうにない。訴訟で理研と研究者のどちらが勝っても、本当の意味での勝者はいない。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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