迫る大量リストラ、理研研究者が募らせる危機感 日本の科学技術力に影を落とす可能性も

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理研が雇い止めをする名目の一つに、理研が2016年に改正した就業規則での「研究者の有期雇用は通算10年まで。起算日は2013年4月1日に遡る」という上限がある。ただ、理研は今年7月、10年上限ルールを2023年4月1日で撤廃する方針を示している。理研は撤廃の理由について、2023年3月31日で有期雇用が通算10年となり雇い止めになる研究者が、4月1日以降の雇用契約のポストの公募に応募できるようにするため、などと説明する。

つまり、B氏にも理研で研究を続けるチャンスは、形の上では残されるわけだ。B氏は所属する研究室で手掛けるプロジェクトで不可欠と自負する役割を担っており、「プロジェクトの継続には自分の雇用は必要になるはず」と考えているという。

もっとも、望むようなポストでの公募が出るという明確な根拠はない。B氏には幼い子どももおり「(公募が出ると)思うしかない」と切実な思いを語る。

そのような中で、今の段階から表立って理研と法的に戦い事を荒立てれば、4月1日以降の雇用のポストの公募に影響するのではないか―。そんな恐怖心が、B氏に訴訟という手段をためらわせる。

海外企業への人材流出も

また、A氏もB氏も訴訟に踏み切れない大きな理由として挙げるのが、自身が参加する研究プロジェクト全体への悪影響だ。A氏は「理研から予算配分で報復されて予算を削減されれば、プロジェクト全体に迷惑がかかる」と懸念する。

一方、雇い止めを前に転職を決め、理研をすでに去った研究者も、数十人に上る。といっても、思い通りに研究を続けられる道を得た人はほぼいない。研究リーダーを務めていた一人は、日本の大手企業からライバルと目される、ある海外の大手企業に既に移籍した。主力製品は世界で高いシェアを持つ、トップクラスのメーカーだ。その研究者をよく知る理研の関係者は、「非常に優秀な研究者で、完全に人材流出だ」と残念がったうえで、「向こうは技術や情報を得ることが狙いだろう。日本にとっての大きな損失になると思う」と話す。

理研の雇い止めによるネガティブな影響は、人材や技術流出だけではない。日本の科学技術の発展そのものにとってマイナスになっている。

日進月歩での国際競争が激しい科学技術の世界では、良い発想があれば1日も早く研究を始めることが重要だ。だが、A氏は「理研からあと1年や2年で理研から契約を切られることが分かっている段階では、良い発想を思いついてもここでやろうとは思わなくなる。まもなく外に転出するのに、アイデアだけを取られたくないからだ。ほかの研究者と話す限り、そういう考え方になっている人は少なくない」と明かす。

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