だからこそ、歴史的な視点からわかりやすく合理的に説明すれば、そのことを多くの人々に理解してもらい、世論を変える一助になるのではないかと考えたわけです。
しかしながら、そういった考えは私の思い上がりだったようです。時が経過するとともに、アベノミクスの結果がある程度見えてくる状況にならなければ、マスメディアは「失敗するかもしれない」と騒ぎはしなかったし、国民も現実をなかなか認識できなかったからです。
「2つのインフレの違い」がわからない米欧の経済学者
三井:(第1回目)のお話の中で、中原さんは「21世起型インフレ」は日本にとって良くないということでしたが、かつての日本の高度成長期のインフレとはどこが違うのでしょうか。「失われた20年」の元凶はデフレにあると言われていましたので、インフレへの転換は望ましいような気がしてしまうのですが、そうではないのでしょうか?
中原:「21世紀型インフレ」とは、原油をはじめとした資源価格の高騰によってもたらされているインフレのことを指しています。それは、資源消費国から資源生産国への所得移転を意味しており、日本のほか多くの先進国の企業・家計部門から資金(貯蓄)が国外へ流出しているわけです。
これに対して、「20世紀型インフレ」とは消費の拡大により物価が上昇していた時代のインフレを言います。非資源国から資源国への急激な所得移転がなかった時代のインフレと言うこともできるでしょう。
「21世紀型インフレ」や「20世紀型インフレ」とは私の造語でありますが、現在の米欧の主流派経済学の根本的な誤りは、この両者のインフレの違いをまったく認識していないことにあるのではないでしょうか。
だから、経済構造が大きく変化している今でも、一律にインフレは良い、デフレは悪いと決めつけ、間違った経済政策を提唱してしまっているのです。
過去数十年の世界の歴史を振り返ってみて、高度成長期のインフレは国民生活にとって苦にならないが、成長の減速期や低成長期のインフレは、国民にとって隠れた税金を払わされているということができます。国民の視点に立てば、給料が上がらずに物価が高くなるということは、実質賃金を下げてしまうことになります。それは実質的に増税になるのと変わりがないのです。
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