なぜ21世紀型インフレは人を不幸にするのか

ピケティでは日本の格差問題はわからない

21世紀型インフレが大多数の中間層と呼ばれる人々の生活を疲弊させてしまっている事実から目をそらして、日本経済がインフレ2%を目指すということは、いかに愚かなことであるかが理解いただけると思います。また、名目賃金よりも実質賃金がいかに大事であるかも実感していただけるのではないでしょうか。

このような事実をしっかりと認識した上で、インフレ目標政策を議論する与党政治家やリフレ派の経済識者がいないのには本当に残念でなりません。

「失われた20年」を歩んでいるのは、アメリカである

三井:日本の「失われた20年」は、そんなに悪い時代ではなかった。「失われた」という見方は欧米の価値観の押しつけであると主張されていますね。非常に印象的な内容でした。

中原:アメリカと比較して日本はGDPも株価も伸びていないことから、よく「失われた20年」だと言われていますが、私はこの言葉は米欧の価値観の押し付けであって、日本の世界に誇れる価値観を反映していないと確信しています。

アメリカのGDPの内容を分析すると、とくに2000年以降は国民の消費の伸びよりも企業部門の利益の伸びが突出していること、あるいは、株式市場における企業価値の増大と格差の拡大は反比例に近い関係にあることを考えると、「失われた20年」はとても正しい表現であるとは考えられないのです。

低成長期に入った先進国として、日本は「21世紀型インフレ」に上手く対応してきた数少ない国の一つであると言えるでしょう。2000年代のエネルギー価格の高騰に対して、多くの大企業は社員全体の賃上げをなるべく抑えることで、中小零細企業は社員一丸となって賃下げの痛みを分かち合うことで、格差を必要以上に広げることなく無難に対応できてきたわけです。

これに対して、アメリカの企業ではインフレ下で実質賃金が減少している状況であっても、少しでも業績が悪くなると大量の首切りや大幅な賃下げが頻繁に行われています。日本の企業であれば、存続の危機に陥らなければやらないことを、アメリカの企業は平気でやってのけるのです。人口の2人に1人がワーキングプアと呼ばれる格差大国であるアメリカのほうが、むしろ「失われた20年」を歩んでいるのではないでしょうか。

日本で賃金が上がらずにデフレになったのは、日本の企業が従業員の賃上げよりも雇用を守ることを優先してきたからです。

こうした日本の企業風土には、社員が一つの企業だけで定年になるまで勤めることに対して、企業はその貢献に報いるために老後までの生活を保障するという、日本人の価値観が凝縮された「約束事」がありました。

日本の企業はこの価値観を重んじて、低成長に陥ろうとも、デフレになろうとも、雇用を守り通してきたのです。その結果が、先進国でもっとも低い失業率を何十年にもわたって維持し続けてきたわけです。

私は「失われた20年」とは米欧の価値観の押し付けであって、日本社会の真相を歪めて伝えてしまっていると考えています。米欧の人々は他の国々のことについて自分たちの価値観に基づいて勝手に評価を下し、それを世界標準として広めてしまうという悪しき習慣を持っていますが、日本人はそのような世界基準は無視して、もっと自信を持っていいと思います。(第3回目に続く)

第1回目「これから日本で起こること」とは何か?を読む

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