ピケティの理論が、日本では当てはまらない理由
三井:中原さんは「過去の著書の主張がピケティに似ていると言われたことがある」とおっしゃっていましたが、それについてお話をうかがえないでしょうか。
中原:私の本を担当してくれた編集者から、そのようなことを昨年の夏頃に言われました。「アメリカでピケティの英訳本が売れているのですが、僕が担当した中原さんの著書と似ている点がとても多かったんですよ」と、少し興奮気味でしたね。
その時はどこが似ているのかを聞かなかったのですが、日本で最近出版された本のサマリー(要約)を見た限りでは、株主資本主義では格差が拡大し続けること、経済学で使われている数学には惑わされないようにすること、著書に哲学的な思想や歴史的な考察が入っていることなどが似ているくらいではないでしょうか。全体としては、私とピケティの著書が似ているとは思っていません。
そもそも、米欧の世界では通用するピケティの理論は、日本ではまったく当てはまりません。それは第2回目の「なぜ21世紀型インフレは人を不幸にするのか」でもお話したように、日本の企業は株価が下がろうとも、収益率が下がろうとも、アメリカ企業のように大量解雇や大幅賃下げを行わずに、社員全員で賃金を少しだけ下げて痛みを分かち合うことで対応してきたからです。これが「デフレの本当の正体」であり、米欧に比べて日本で格差が拡大しない原因でもあったわけです。
ところが、その日本の長所を捨てさせようとしているのが、政府が成長戦略で示した「企業におけるROE重視の戦略」です。この成長戦略をやりすぎてしまうと、日本の企業はアメリカ企業のように株主にしか迎合しない存在、すなわち労働者にとっては血も涙もない存在になりかねないのです。
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