三井:話を聞いていると、円安よりは円高のほうが、日本経済、日本国民にとっては良いということなのでしょうか。
ドル円相場は「1ドル90円台半ば」が適正
中原:私がアベノミクス以降に一貫して主張してきたことは、日本の経済構造の変化に合わせて、行き過ぎた円高や行き過ぎた円安の水準は変わるはずであるということです。
たしかに、2000年代初めであれば、私も適正なドル円相場は120円くらいだと言っていたかもしれませんが、いまや日本経済の構造変化に伴って、行き過ぎた円安は弱者にしわ寄せが偏る性格を持ってしまっています。
そう考えると、国民全体にとっても、企業全体にとっても、国家財政にとっても、三方一両損ではないですが、ドル円相場は90円台半ばくらいが適正ではないかと思っています。そして、そういったことを考慮に入れながら、経済政策や金融政策は決めていかなければならないと強く思っているわけです。
第2回目の「なぜ21世紀型インフレは人を不幸にするのか」で述べた通り、2000年以降のアメリカの事例は、通貨安・物価高よりも通貨高・物価安の組み合わせのほうが、国民の生活水準の向上に寄与するだろうという事実を見事に示しています。本当の景気回復とは、大多数の庶民と呼ばれる人々の生活が豊かになることであり、決して一部の大企業や富裕層たちに富が集中することではないのです。
また、アメリカの事例だけでなく、円安で好景気が続いたと言われる2005年~2007年の事例からも、「GDPは順調に拡大したが、実質賃金はマイナスとなり格差が拡大した」という教訓を、私たちはしっかりと学ぶ必要があるでしょう。
くどいかもしれませんが、かつては先進国でも見ることができたような「景気の拡大=実質賃金の上昇」「企業収益の拡大=実質賃金の上昇」という相関関係は、2000年以降のグローバル経済の進展やエネルギー資源価格の高騰によって、成立しなくなってしまったのです。
日本人は自らの価値観を守るために、すなわち雇用を守るために全体で賃金を引き下げてきました。だから日本はデフレになったわけですが、2000年以降の実質賃金の推移を見ると、リーマン・ショック前後とアベノミクス以降を除いて、ほとんど下落していなかったという事実を無視してはいけません。今のように経済がインフレ下で実質賃金が大きく下落している状況に比べれば、デフレ期のほうが大いにマシだったと言えるわけです。
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