「まずは一度、全部リセットしてゼロから考えることにしました。そのために、社内で2つの言葉を使うことを禁止したのです」
1つは「ファミリアらしさ」、もう1つは「前年比」だった。なぜなのか。その2つの言葉が、新しいことをやらない“言い訳=ブレーキ”になっていたからだという。
「例えば『それってファミリアらしくない』とか、「とりあえず前年比をクリアしているので無理しなくても」とか、問題の本質に向き合って新しいことに挑戦するのを避ける防波堤として、「ファミリアらしさ」や「前年比」が使われていたのだ。
岡崎さんは「今までの『ファミリアらしさ』や過去の文脈の延長にある『前年比』という考え方を捨て、新しい『ファミリアらしさ』を作らねばならない。だからこの2つの言葉を使うのはやめよう」と伝え続けた。
「会社にDNAを作っていくのが僕の仕事」
老舗ブランドの取材をしていると、伝統を大切にしながら革新を続けていく。「伝統は革新の連続」といった話をよく耳にする。和菓子の老舗である虎屋で「うちは革新に振り切るくらいの覚悟がないと、ただでさえ重い伝統に引っ張られてしまう」という話を聞いたことがある。
“らしさ”は時に、変化に対する錘(おもり)になってしまう。岡崎さんが言うように、「全部リセットしてゼロから考える」くらいの思い切りが、老舗が抜本的な改革をはかるためには必要なのだろう。
ただ、岡崎さんは伝統を否定しているわけではない。そこまで振り切ったうえで、会社に残っているアーカイブをもう一度観察し、未来に向けて有用と思えるものの活用もしている。
オフィスの入り口に飾ってある「one smile fits all」という言葉と創業者たちの写真もその1つ。ファミリアという企業のDNAを創ってきた人たちの笑顔が、会社の精神を伝えている。もともと社長室に飾ってあったものを、社員の目に入るところに置くことにしたという。
「創業家だからDNAを持っているでしょうとよく言われるのですが、僕がDNAを持っているのではなく、会社にDNAがなければならない。それを作っていくのが僕の仕事なのです」
そして、これまでの歴史を見直して再定義し、未来に向けての理念を言葉化しようということから、「子どもの可能性をクリエイトする」を掲げることにした。
「“子ども服を売る企業”では、やれることは限られてきますが、“子どもの可能性をクリエイトする企業”なら、さまざまな可能性が広がってくると思うのです」
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