しかし、その半面で、非加盟国との貿易が阻害される危険がある。EPA(経済連携協定)はFTAより広範囲の経済活動を対象とするが、中心が財の貿易であることに変わりはない。このような政策が是とされるのは、現存する製造業をそのまま残すことが前提とされているからだ。
いま議論されているTPP(環太平洋経済連携協定)は、さらにおかしい。その実質的な内容は日米間のFTAである。つまり中国と韓国を排除した貿易ブロックを作ろうとする考えであり、製造業の立場から見てさえ望ましくない協定だ。中国が排除されることは、長期的観点から見て日中経済関係を悪化させる危険をはらんでいる。
日本にとって必要なのは、一部の国と経済ブロック化を図ることではなく、新興国からの人材受け入れを円滑に行える制度的な仕組みを整備することだ。それらは、EPAやTPPの一部として含まれているとはいえ、これらの協定がなければできないことではない。日本が一方的に受け入れの制度を整備すればよいのである。そして、特定国との間だけでなく、世界に向けて日本の労働市場を開放する必要がある。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2011年2月26日号)
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