(第52回)中国の大学卒業者が過剰であることの意味

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 それを見るために、次のような思考実験を行ってみよう。いま中国の大学生を能力順に並べ、上位10%の学生を選び出すとしよう。彼らの総数は日本の大学生総数とほぼ同じである。ところが能力は中国人学生のほうが上なのだ(なぜなら彼らは上位10%だからである)。

どの程度の違いがあるかは、能力の分布がどうなっているかによる。前回で述べたように、日本の所得分布において上位10%は平均の2倍であった。仮に大学生の能力分布が同じであるとし、平均能力は日中で差がないとすれば、上位10%に入っている中国人学生の能力は、日本人学生の平均能力の2倍以上である。

思考実験をさらに進めよう。いま日本企業が、これまでのように日本人学生を採用対象にしていたのを止めて、上位10%の中国人学生を対象に採用するとしよう。対象総数は変わらないのだから、これまでと同数の学生を確保できる。しかし、新規採用者の能力は確実に上がるのである。もし分布に関する右の仮定が正しいとすれば、これまでの採用者の平均能力の2倍以上の学生だけを採用できる。

では、実際にそのような採用を行えるだろうか?

もちろん上位10%の中国人学生のすべてを採用することはできない。中国の企業が狙っているし、欧米企業も狙っているからである。しかし、対象を「10%」から少し広げれば、量的確保は十分可能だ。

では、彼らが満足する報酬を提供できるだろうか? 能力が非常に高い中国の人材は、いまでも日本人より高い給与を得ている。しかし、それは外資系投資銀行など特殊な分野だけだ。それを除けば中国人の給与は非常に低い。これは前に述べた「蟻族」の実態を見ても明らかだ。大学卒であるにもかかわらず、平均月給が2~3万円なのである。だから日本企業であれば、中小企業であっても十分な給与を提供できるだろう。

以上で述べたことは、現実に極めて重要な意味を持っている。それについて次に述べよう。


野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)


(週刊東洋経済2011年2月19日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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