そこで小麦に代わる穀物として注目されるのがコメだ。世界のコメの輸出量の1割以上を占めるタイでは、コメの輸出が急増している。ウクライナ侵攻前の1~2月の輸出量だけでも前年同期より3割増えた。欧州や中東からの買い付けが多い。
それでも小麦価格の高騰は続き、ついにはコメと小麦の価格が逆転している。アメリカ農務省によると、アメリカの農産物の集積地カンザスシティーの小麦価格が3月平均で1トン当たり454ドル(約5万9000円)と前月比で25%も上昇したのに対し、コメの国際価格の指標となるタイ産のコメは同月で425ドルと、小麦がコメの価格を上回ってしまった。こんなことは2008年以来のことだ。
2008年に起こった食料危機の実態
その2008年に世界は深刻な食料危機を体験している。やはり穀物の価格が高騰して、食料を輸入に頼る、それも貧困国では食料が買えなくなり、餓死者も出て、各地で暴動が起きた。国連の食糧問題の担当部署では、1億人が食料不足の危機にさらされているとして、この事態を『静かなる津波』と表現していた。
そのときの特徴は、投機筋が流れ込んだこともあって小麦が値上がりしたことに加えて、それに連動するようにアジアではコメの価格も高騰したことだ。当時、その事情を探りに私はタイを取材している。タイ国内でも主食のコメが高騰していた。
「概算で、小麦の取引相場が1トン当たり250ドルから600ドルに上がったのに対し、輸出米の取引価格は、わずかこの6カ月間で360ドルが、1000ドルにまでなろうとしている」
タイ米輸出業協会の当時の会長は、そう説明したうえで、さらにこう解説していた。
「原因は、小麦価格の高騰と、インドにあります」
当時のインドは、生産量で中国に、輸出でタイに次ぐ、世界第2位のコメ大国だった。ところが、そのインドが前年の8月にコメの輸出を全面禁止に踏み切ってしまったのだ。
ここにインドの独特の食文化が絡んでいた。この国の主食はコメと麦の2つを両有するからだ。コメはもとより、小麦はナンに焼いて食べる。インドがコメの輸出禁止に踏み切ったのは、小麦の値上がりによる国内のインフレーションを懸念したことによる。
経済成長の著しいインドでは、当時の年間のインフレ率が15~16%とみられていた。
「小麦価格上昇によって、いっしょに米価が高騰し、インフレを悪化させないために、国内米価の維持のために輸出をストップさせた」
このインドに追従するように当時、世界第3位のコメの生産、輸出国であったベトナムも輸出を止めてしまった。表向きの理由はコメの不作見通しだったが、
「ベトナムもインフレ率が年間19%とされています。輸出需要の増大で国内米価の高騰を抑えようというのが禁止の理由」
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