会議で判断誤る残念な人々と正しい人々の決定差 集団は個人より妥当に判断するが忖度が邪魔する

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肝心なのは、ある人がその集団に加わることで、集団的意思決定の質が上がるか下がるかです。つまり優れた意思決定をする集団とはどのようなもので、それはなぜかの理解が大切です。

一体どのような集団が、優れた意思決定をするのでしょう。経済学のみならず、さまざまな学知を持ちより、ひとつの全体像を築いていきたいと思います。

議論の出発点はニコラ・ド・コンドルセの「陪審定理」です。現代の社会科学は数学を多用しますが、そのアプローチを切り拓いたのがコンドルセです。フランス革命直前の時代に数学者として頭角を現し、数学による投票制度の分析を推し進め、政治にも関わった人物です。革命後の動乱期に命を落としましたが、彼が示した陪審定理はいまも社会科学の金字塔です。

会議の判断が、個人の判断よりよくなりやすい理由

コンドルセ陪審定理とは「集団は個人より正しい判断をする確率が高い」という、集合知の威力を強く示す定理です。ここでは20世紀を代表する天才科学者、ジョン・フォン・ノイマンによるこの定理の応用を見ていきましょう。

ノイマンはご存じの方も多いと思います。量子力学を数学的に基礎づけたり、ゲーム理論を創始したりしています。彼は現代のコンピューター原理の父の1人ですが、理論家としてだけでなく、実務家としても有能でした。

当時の科学技術は、ノイマンの理論をきれいに実現できるほど発達していませんでした。電気回路がときおりエラーを起こすのです。「X」という情報を伝えねばならないのに、誤って「notX」と伝えてしまう。あるいは「notX」という情報を伝えねばならないのに、誤って「X」と伝えてしまう。誤った情報だと、コンピューターは誤作動を起こしてしまいます。

この問題に対して、凡庸な研究者ならば、技術者に「電気回路の性能を上げろ」と求めたことでしょう。電気回路のエラーが問題なのだから、ごく当然です。しかしノイマンは凡庸ではありません。「電気回路はいまの性能のままでいい。ただし複数の電気回路を使わせろ」と求めます。彼が考えたのは「電気回路の多数決」でした。いままでは1本しか使っていなかった電気回路を、3本使うというようにしたのです。3本のうちどれかがエラーを起こし、3本のあいだで意見が割れたら、多数決をとります。

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