会議で判断誤る残念な人々と正しい人々の決定差 集団は個人より妥当に判断するが忖度が邪魔する

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次に、情報や考える力はあるけれども、「面倒くさいから適当に判断する人」はどうでしょう。そういう人が会議にいてもいいかどうかというと、これもノーです。面倒くさいから適当に判断する人は、くじ引きでランダムに判断を決めているようなもの。コイントスと見なすと、イエス・ノーの判断で正しいほうを選べる確率は50%です。しかしコンドルセの陪審定理が成立するためには、1人ひとりの正解率が50%より高くないといけません。

また、面倒くさいから適当に判断する人は、他者の判断に追従したり空気に流されたりする可能性も高いでしょう。もちろんこれは独立性に違反します。

同じ方向を向かなければうまくいかない

結論をまとめると、独立した人々による目的の共有が、集団がうまく機能するための条件です。陪審定理以外の集団の意思決定に関する定理でも、大抵これと同様の結論になります。

一例を挙げましょう。コンドルセは社会科学に数学を持ち込んだ開祖のような人です。彼が蒔いた種は20世紀になってから、まず経済学、続いて政治学や社会学で実りました。そこで近年得られた重要成果のひとつに、多様性定理があります。本当の名前はもう少し長くて「Diversity Trumps Ability Theorem」、直訳すると「多様性は能力に打ち勝つ定理」です。この定理は「さまざまな認知能力を使って解決する必要がある問題を解く際には、多様な人々の集団のほうが1人の高能力者よりも早く問題を解く」ことを示しています。

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人間の認知能力には広いバラエティがあります。私たち1人ひとりは、それぞれ得意なことが異なっている。「さまざまなメンバーが自分の能力を会議に持ち寄るとよい」というのが、多様性定理が会議の研究に教えることです。そして、この多様性定理においても、目的の共有と独立性は必要です。

より砕いていうと、集団での意思決定においては、人々は同じ方向を向かねばならない。そのためには組織のミッションやビジョンを共有し、かつ利害も共有する必要があるでしょう。

これが容易でないことは、組織の運営に携わる人にはおわかりかと思います。しかも各人は自分の頭で考えねばならない。上司への忖度も、部下への遠慮もダメです。各人が自分の能力を持ち寄り、他者におもねらずに判断せねばならない。これらは道徳の教説ではなく、あくまで陪審定理や多様性定理から得られる含意です。数学的な理屈の裏付けがあるもので、あとは実利に役立てるだけです。

坂井 豊貴 慶応義塾大学経済学部教授・Economics Design Inc.取締役

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さかい とよたか / Toyotaka Sakai

1975年生まれ。ロチェスター大学Ph.D.(経済学)。2014年より慶應義塾大学教授、2020年にコンサルティング企業Economics Design Inc.を共同創業。東京経済研究センター業務総括理事、Gaudiy Inc.経済設計顧問、日本ブロックチェーン協会アドバイザー、朝日新聞書評委員はじめ多くの役職を併任。主な著書に『多数決を疑う』(岩波新書、高校現代文の教科書に所収)、『マーケットデザイン』(ちくま新書)。著書はアジアで翻訳多数。共著書に『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。』(日経BP)がある。

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