科学は技術のためのものではない
山折:では、次のテーマとして人文学の危機について移っていきたいと思います。
もう30年くらい前かな。ロボット博士として知られる森政宏さんと対談したときに、彼がふっとこう言われた。
「科学の世界にはわからないことがある。しかし技術の世界にわからないことはない」
あのセリフは忘れられません。ついにここまで来たかと思いました。私にはiPS細胞も含めて、技術が暴走しはじめているという感じがするわけです。技術にも、ある程度は自己抑制が必要なのではないのかと思います。今の生命科学は、そこをどう考えているのか。
中村:そうですね。今は科学技術といわれますが、本来、技術は科学の前から存在していました。それこそ石器時代から技術はあったわけです。技術の中にわからないことがあったら、何が起こるかわからなくて恐ろしいことになります。たとえば自動車にわからないところがあったら、怖くて運転できない。森先生がおっしゃったのは、そういう意味だと思います。
科学は世界観を創るもので、技術だけのためのものではありません。もちろん科学技術は必要ですが、その場合「科学にはわからないことがある」ということを踏まえたうえで使わなければならないと思います。
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