山折:そうですね。それを人文学も社会科学もまねしているんです。われわれの世界は鉛筆と紙があれば仕事ができますよ。ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹さんだって、基本はそうだったと思います。
中村:あの時代までは鉛筆と紙です。懐かしいですね。
山折:鉛筆と紙は重大なキーワードですね。先ほど私、サル学について批判がましいこと言いましたけど、日本の類人猿研究というのは世界の最先端を行ってるわけですよ。なぜかというと、日本にはサルと人間は同等の関係だという世界観があるからだと僕は思っています。
中村:サルに一頭一頭、名前をつけますね(笑)。
山折:これはやっぱり大事にしていかなきゃならない。もっとも基本的な教養の原点だと思います。
中村:生命科学の研究者にとって、日本の自然の中にいるということ自体が大きなメリットだと思います。
明治時代は「文理融合」が掲げられていた
小学校の理科という科目は、明治のころにヨーロッパから科学を取り入れて作ったものですが、そのときにできた理科の指導要領に、理科の目標が書いてあります。ご覧になってみてください。
山折:「自然に親しみ、見通しをもって観察、実験などを行い、問題解決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに、自然の事物・現象についての実感を伴った理解を図り、科学的な見方や考え方を養う」というところですね。
中村:後半は科学ですよね。でも前半の、「自然に親しむ」「自然を愛する心情を育てる」は科学ではない。日本人は自然に親しむ、自然を愛する心情を育てることを理科の目標に入れた。私、これはすばらしいと思うのです。
山折:文理融合をその段階でやっていたわけですね。
中村:そうなんです。明治にできた指導要領ですけど、今も同じです。でもグローバル社会で技術競争しようとおっしゃる方に言わせたら、こんなこと言ってるからダメなんだということになりかねない。でも今となっては、この考え方が世界をリードするのではないかと私は思っています。
山折:そのとおりですね。
中村:日本は明治のころからずっと、子供たちにこれを教えてきた。低学年のころはみんな理科が好きだけれど、だんだん嫌いになるとよく言われます。低学年のころは、「自然に親しむ」のほうが強いんですよ。だんだん上に行くと、理屈のほうへ行く。
山折:私も中学の実験室で嫌になりましたな(笑)。
中村:残念です。文科省の方は、改めてこれをよく読んでほしいと思います。
山折:それは、この対談では特筆大書しなければならない(笑)。いやいや、教えられました。
(構成:長山清子、撮影:ヒラオカスタジオ)
※ 山折×中村対談 その3:「日本人なら、『やまと言葉』を大切にしよう」はこちら
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