仕事を通して人が成長する会社 中沢孝夫著 ~地方の中小企業の実態が投げかける、よくある格差論への疑問
成功した企業、成長する組織についての著作は多い。本田、ソニー、松下電器(現・パナソニック)、京セラ、日本電産などの経営者が抱く経営哲学もよく書かれる。またテレビ番組でも現役の経営者が登場して、経済分析、経営戦略を語っている。いずれも聴くに値する内容を含んでいる。ただし、やや違和感を抱く人も多いのではないか?
違和感の理由は、いずれも大企業の戦略、哲学だからだ。本書によれば、日本企業400万社の99%以上が中小企業。大企業は1万2000社で全体の0.3%でしかない。中小企業の社員数は少ないが数が多いので、日本のビジネスマンの70%が中小企業に勤めている。しかし、圧倒的に多い中小企業の姿がメディアで取り上げられることは少ない。
本書が取り上げているのは、すべて中小企業の10社だ。モノづくりで人が成長する10のストーリーを語っている。ストーリーは海外進出であったり、介護事業への進出であったり、屋台から始めて現在は年商10億円を超えた豆腐の製造・販売であったりと多彩。実に多くの物語がある。
共通しているのは、ほとんどの企業が地方に立地しているということだ。著者は福井県立大学特任教授なので、福井県のメーカーが特に多い。そして会社と社員の温かい家族のような関係が描かれている。働いている人がパートやアルバイトの形態であることもあるが、それは本人の都合。正規社員と非正規社員という格差問題はなく、満足してその会社で働き続けている。
給与や労働条件がいいというわけではない。プラスチック成形の東海化成には「下請けさん」という家族従業員がいる。プラスチック成形の仕事は単価が安いので、朝の5時、6時から夜の9時、10時まで働くのだそうだ。しかし長時間労働は「苦痛」ではないという。外に働きに出ることなく、夫婦で一緒に自分の家を職場にして働き、一緒に暮らせることを大切にしているという。
安田蒲鉾の従業員数は43名で、平均年齢は52歳と少し高い。高い理由は辞めないからだ。60歳で退職金は支払うが、その後でも勤めたかったらいつまでいてもいい。70歳の人も働いており、親子で働く家が4組、夫婦者も3組いる。