仕事を通して人が成長する会社 中沢孝夫著 ~地方の中小企業の実態が投げかける、よくある格差論への疑問


新卒定期採用はしていない。親から「この子は間に合わない(あまり役に立たないという意味の福井言葉)で」と頼まれても受け入れる。養護施設から依頼されて引き受けることもある。いずれの場合も、ちゃんと育って大きな戦力になっている。

本書で知ったが、『「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所、太田肇著)には「給与や賞与の高い業種や職種のほうが不満の声はむしろ大きいようだ」と書かれているそうだ。収入が多ければ満足度が上がると考えがちだが、実収入が期待値を下回れば不満になるという心理もわかる。そして、逆のこともある。

本書を読むと、大企業の給与より低いけれど、和気あいあいと中小企業で働き成長していく様子が何例も報告されている。

この10年間、労働問題の論調は暗かった。格差論、非正規雇用問題、かわいそうな若者、厳しい就活、と現代の雇用が行き詰まっているかのように論ずるものが多い。だが、著者の立場は違っている。そういう「哀しい物語」が探せばいくらでもあることを認めたうえで、格差論の多くは意識的、意図的な数字の読み方をして議論を歪めていると主張する。

著者に言わせると、昔から20歳前後の若者は転職を繰り返していたが、それでも20代後半から30代前半ごろまでに多くの人間が生涯の仕事に定着する。今も昔も大きな違いはないと著者は考えている。

この点について関心を持つ人は「第十一章 中小企業で働くということ」を読むといい。データを交えて詳しく解説されている。

(HRプロ嘱託研究員:佃光博=東洋経済HRオンライン)

PHP新書 756円

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