(第47回)日本を変革するのは外部から来る経営者

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 アメリカの投資ファンド、スティール・パートナーズは、一時、ビール大手・サッポロホールディングスの保有比率を19%にまで高め、経営陣の刷新を含む経営改革を求めた。これに対しサッポロは買収防衛策を導入して対抗し、両社の攻防は04年以降6年間も続いた。しかし、先ごろ、スティールがサッポロの全株式を売却したことが判明した。日本企業の経営権取得が極めて困難であると認識したためだという。

企業の経営者としては、海外からの買収がなくなれば安心できるだろう。しかし、日本経済活性化の観点からすれば憂慮すべき事態である。

問題は、多くの国民も「攘夷論」に洗脳されてしまっていることだ。従業員の立場からすれば、外資に買収されることは、決して悪いことではない。仮にそれによって企業が活性化し、高い報酬を受けられるようになるなら歓迎すべきことだ。

それにもかかわらず、従業員が外資による買収に反対するのは、メディアが経営者の立場からの報道を行うからだ。たとえば外資による買収の阻止が、侵略する外敵からの国土防衛のように描かれるドラマを流して反発を煽る。国民はそれを感情的に受け入れる。こうした環境で外資による買収歓迎論を述べれば、「売国奴」「裏切り者」「それでも日本人か」などの雑言を浴びせられる。

感情的反発を取り除き、事態を冷静に評価することこそ必要なのである。報道が本来果たすべき役割はそうした見方を国民に教えることだ。しかし、日本のメディアは正反対のことを行っている。


野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)


(週刊東洋経済2011年1月15日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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